「二度とセウォル号の悲劇がないように」…『海の懲毖録』を書いた元韓国海洋警察庁長

金・元海洋警察庁長の回顧録

 本書では、当時メディアやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS、交流サイト)を通して無分別に伝えられた各種のうわさや怪談について、事実であるかどうかも細かく説明している。「サルベージ業者アンディン(Undine)を投入するために海軍の潜水を妨げた」「人身御供(ひとみごくう)説、潜水艦衝突説」などといったデマだ。金・元庁長は「誤った主張がなされて歪曲(わいきょく)された情報が流れていても、当時の雰囲気で海警や専門家らは一言も言えない状況だった」と回顧した。

 金・元庁長が言いたかったことは著書の最終章に収められた。金・元庁長は、韓国社会にまん延する、事故が政治的に解釈されて変質する「政治化現象」と、事実が否定される現実を批判している。これが、韓国人の直面する混乱と痛みだという。著者は「事故原因やその後の対処過程が一点の疑惑もなく究明されねばならないということには共感する」と語った。その上で「『司法主義万能論』式の事故対応や、世論をなだめるために『違うのなら別にいい』式で証拠も不十分なまま取りあえず起訴するという行いは、社会がより良い方向へ進んでいくこととは別個の問題と言える」と指摘した。時には政争よりも、科学的で客観的な事実に注目した因果関係で事案を見つめて初めて、解決が出てくることもあり得る-という説明だ。金・元庁長が著書に記した内容は、責任者の過失を覆い隠そうとする一種の弁明であり釈明だと映るかもしれない。金氏は著書の付録に、数十ページも割いて「弁護人意見書」を収録した。

 本書に対する評価は割れるかもしれない。本書が柳成竜の『懲毖録』のような存在なのか、それとも当時の事態に対する弁明書なのかを巡っては、世論の意見がはっきりと分かれるだろう。それでも意味があるのは、本書は海警の過失の弁明や、「やるべきことは尽くした」というような主張のみを掲げるものではない、というところにある。著者は、数百人の貴重な生命が失われるのを防げなかったことを謝罪した。金・元庁長は「海の安全の責任を負っていた人間として、惨憺(さんたん)たる事故を防げなかったことについておわびする」「あらためて遺族に心から慰労を申し上げる」と記した。308ページ、1万9000ウォン(約2100円)

チャン・ユンソ記者

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