「韓国版NASA(米航空宇宙局)」として今年5月に発足する韓国宇宙航空庁(KASA)の庁長や任務本部長など幹部らの人選が終わった。宇宙関連業務は現在韓国科学技術部(省に相当、以下同じ)、産業通商資源部、航空宇宙研究院、天文研究院など複数の部処(省庁)や組織に分散しているが、これを統合し宇宙開発や宇宙産業育成のコントロールタワーの役割を担うのが宇宙航空庁だ。その核心となる研究開発を総括する任務本部長について、韓国政府はその年俸を大統領と同じ2億5000万ウォン(約2800万円)とし、外国人にも門戸を広げるなど破格の条件で募集を行った。その結果、かつてNASAで本部長を務めたジョン・リー氏を採用する方針が決まった。
リー氏は米国籍を持つ移民1.5世の韓国人で、NASAのゴダード宇宙飛行センターなどに29年在籍し、数々のプロジェクトを担当した。またホワイトハウス行政予算局で予算関連の業務に従事した経験も持つ。米国の宇宙開発ノウハウを学び、NASAとの協力強化を見据えた人事とみられる。2013年の朴槿恵(パク・クンヘ)政権当時、在米韓国人企業経営者のキム・ジョンフン元ベル研究所長が未来創造科学部長官に指名されたが、野党が二重国籍などを理由に反対し、就任に至らなかった前例もある。今回はこのような時代錯誤の事態だけは起こしてはならない。
昨年5月の「ヌリ号」打ち上げ成功により、韓国は重さ1トン以上の人工衛星を自力で打ち上げた世界で7番目の宇宙自立国になった。しかし宇宙先進国と比較すれば現状は初歩的なレベルにとどまっている。米国などではイーロン・マスク氏のスペースXなど民間企業が宇宙産業に参入し、地球全体をカバーする衛星インターネット網の構築、ロケットのリサイクル、有人月探査プロジェクトなど「宇宙産業革命」の先頭に立っている。民間の技術革新でロケット打ち上げの費用が画期的に縮小し、宇宙はすでに安全保障や軍事のための空間から経済・産業の空間へと進化しつつある。宇宙産業全体の市場規模は現在の520兆ウォン(約59兆円)から2040年には1400兆ウォン(約160兆円)へと急成長する見通しだ。
宇宙航空庁には数々の課題が待ち受けている。ロケットの打ち上げ費用をさらに安くし、またロケットの回収やリサイクルの技術開発、より重量のある人工衛星や探査ロケットを打ち上げる技術開発などだ。韓国政府は2032年には月探査を行い、光復(主権回復)100周年となる2045年には火星に無人ロケットを飛ばし、太極旗(韓国の国旗)を立てる計画を公表した。荒唐無稽に思えるかもしれないが、夢を現実にしてきたのが韓国の歴史だ。宇宙航空庁が宇宙開発の先頭に立ち、韓国における宇宙開発の歴史を新たに書き換えることを期待したい。