ドイツで目の当たりにした韓国の光と影【コラム】

 ドイツに初めて到着して感じたのは、韓国の存在感が変化したことだった。十数年前にバックパックを背負って欧州を旅行した時は、必ずといっていいほど「日本から来たの? それとも中国から?」と言われた。韓国から来たと言うと、南なのか北なのかと聞かれることもたびたびあった。今は逆に、街で「韓国人ですか?」「韓国人と友だちになりたいです」と声を掛けてくれる人もいる。

 友人たちの間では「最近はうかつに韓国語で悪口を言ってはいけない」と半分冗談のように言われている。世界の人たちが韓国ドラマを頻繁に見るようになり、口汚い表現を使うと聞き取られてしまうからだ。カフェで韓国人の友人と話していると、店員が「カムサハムニダ」と韓国語で話しかけてきたり、スーパーマーケットの店員がこちらのことを韓国人だと見抜いて「(ドラマの)『トッケビ』が好きです」と言いながら韓国人俳優を壁紙にしたスマートフォンを見せてくれたりする。サッカーはあまり見ないというフランス人の友人も「お前の国には『ソン(ソン・フンミン)』がいるじゃないか」と言うし、アジア系スーパーで買い物をしていたときに「キムチチゲを作りたいんですが、材料はこれで合っていますか?」と聞いてくる学生もいた。BTSやBLACKPINKなど韓国のアーティストについては言うまでもない。記者の知らないボーイズグループやガールズグループの名前をすらすら口にする外国人もいる。こちらが何もしていないのに「韓国人」という理由だけで好感を抱いてもらえるということに、戸惑いながらもとてもうれしい気持ちになった。

 一方で、ドイツで韓国人であることを放棄した人たちにも大勢出会った。移住を決心した理由はまちまちだ。小学生の子どもが2人いる40代の夫婦は、子どもたちを受験戦争で疲れさせたくないと思ってドイツを選んだ。学校でさまざまなスポーツや公演を楽しむ子どもたちを見て、自分と同じ人生を歩ませずに済んでうれしいと話した。30代の会社員は、合理的な「ワーク・ライフ・バランス」を求めてドイツにやって来た。そうは言っても不安なため仕事を増やそうとしたところ「自分自身の方が大切」と上司に言われ、驚いた。有給と病気休暇を気兼ねなく取れるという状況も、韓国では経験したことがなかったという。老後の安定が保障されず、職場での感情労働(業務中に感情のコントロールや表現が不可欠な職業)に疲れ、何でも比較する文化が嫌になったなど、韓国を離れた理由を口々に話しているうちに、その場は共感の嵐となり、みな韓国社会への不満が止まらなくなってしまった。それらはどれも、「異国の地での暮らしは楽ではないけれど、ここに残ろう」と決めた理由の数々だ。

 自分の住む国を自由に選ぶ権限が誰にでも与えられるなら、どうだろうかと考えてみる。そうなった場合、韓国という国は果たしてどれほど競争力があるだろうか。韓国を憧れの対象と考える人たちもいるが、今の韓国社会を迷わず選ぶのは簡単なことではないと思う。移住した人たちが口にした「韓国を離れた理由」が、どれもこれも痛いほど分かるからだ。合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの数)「0.65」という統計がこれを裏付けている。この状況を解決する制度と政策が切実に求められる今、選挙を前に再び権力争いに没頭する人たちが残念でならない。

ベルリン=チェ・アリ特派員

<記事、写真、画像の無断転載を禁じます。 Copyright (c) Chosunonline.com>
関連ニュース
あわせて読みたい