2020年に西海で北朝鮮軍に射殺された韓国海洋水産部(省に相当)職員の遺族が北朝鮮を相手取って起こした2億ウォン(約2200万円)の損害賠償を求める訴訟で、裁判所は遺族側の訴えを認めなかった。遺族は裁判所に対し、官報などに訴状を掲載すれば相手側に書類が届いたと見なす公示送達を申請した。当事者に訴訟関連の書類を送ることが現実的に難しい場合に使われる制度だ。しかし裁判長は今回の案件について「公示送達の要件に該当しない」として申請を却下した。元韓国軍捕虜や戦時拉致被害者遺族などが数年前に北朝鮮を相手取って起こした訴訟では公示送達が認められ、北朝鮮の賠償責任が認定されたが、今回はこれらの判例と相反する判断が下されたのだ。
裁判当事者の住所などが把握できない場合、あるいは海外で行うべき送達などの場合は現行法で公示送達が認められている。裁判長はこれらの要件を根拠に「遺族側は北朝鮮の住所を把握しており、また憲法上北朝鮮は韓国領土とされている」との理由から「公示送達の要件は満たされない」と判断したようだ。しかしこれは誰が見ても「分断」という現実を無視した決定であり、法律の規定のみに縛られたあまりに機械的な判断だ。
元韓国軍捕虜らは裁判所で北朝鮮の賠償責任を認める判決を勝ち取った際、北朝鮮に支払う著作権料を保管している南北経済文化協力財団に賠償を求める訴訟を起こしたが、裁判所はこれを認めなかった。同財団の資金は北朝鮮政権ではなく北朝鮮住民個人や団体の所有というのがその理由だった。しかし全ての住民が政府の奴隷となっている北朝鮮で個人の著作権などあり得ず、そのためこれはあまりに現実を無視した机上の空論だった。さらに裁判所が公示送達まで認めないとなればこれは正義と言えるだろうか。
米国の裁判所は2015年、北朝鮮に抑留され死亡した米国人オットー・ワームビアさんの両親が起こした訴えを何度も認め、北朝鮮に賠償を命じる判決を下した。その後両親は賠償金を得るため、米国で抑留された北朝鮮貨物船の強制売却を求め、裁判所はこれも許可した。韓国とはあまりに違った対応だ。韓国の裁判所が今回のような判断を下すようでは、金正恩(キム・ジョンウン)総書記は自らの反人道的蛮行に負担を感じるだろうか。