6・25戦争に参戦した米軍のフェレン・バーク中佐は「力を試す戦争ではなく、意思を試す戦争だった」と振り返る(「こんな戦争」1963)。彼は共産主義者について「優勢な軍事力で韓国を赤化統一する野望が強かった」と振り返る。とりわけ「訓練を受けられず綱紀が緩かった韓国軍に加え米軍の被害も大きかった」と嘆き「軍は明日サッカーの試合に出る選手のように徹底して準備しなければならない」と訴えた。それでも米軍をはじめとする自由主義世界が地上軍を派遣し、直ちに韓国を救援できたことは大韓民国を守る神の御加護だった。
戦争から70年が過ぎ、南北にはさまざまな変化が起こった。米国の軍事力評価会社グローバル・ファイア・パワー(GFP)による2024年の世界の軍事力ランキングで韓国は5位、北朝鮮は36位だった。国防予算項目では韓国は約53兆ウォン(約5兆9000億円)で11位、北朝鮮は4兆6000億ウォン(約5100億円)で58位だった。これだけなら韓国の軍事力は北朝鮮を圧倒しているように見える。しかしこの評価には北朝鮮の核兵器が含まれていない。在来兵器では韓国軍が北朝鮮軍を上回っているが、核兵器を含めると話は違ってくる。核兵器の非対称性は在来兵器の優位をなくしてしまう。韓米同盟の拡張抑止戦略で北朝鮮軍の核攻撃を防ぐという課題は韓国の安全保障にとって深刻な挑戦だ。
戦争遂行力の面でも韓国の経済力は北朝鮮を圧倒している。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記は先日妙香山で北朝鮮幹部らに地方経済の不振と基本的な生活物資の不足を叱責(しっせき)した。軍需産業ばかりに力を入れ、人民の経済を軽視したためだ。北朝鮮は1946年の土地改革により6・25南侵直前には食糧生産が解放当時の2倍となる240万トンに達していた。戦争遂行能力を確保した1950年と基本的な生活物資も確保できない2024年とは状況が異なるのだ。
ただし韓国における最近の政治の混乱は解放当時に劣らず懸念せざるを得ない。目に見えない安全保障政策を巡る政治の分裂は国の防衛力を弱体化させる。金正恩総書記は韓国の領土を占領し確保することを憲法に明記すると宣言した。哨戒艦「天安」爆沈や延坪島砲撃のような奇襲攻撃にとどまらず、西海の防衛が脆弱(ぜいじゃく)な島を一時的に占領する非常事態が発生することも考えられる。西海の地図を開いてしっかりと対策を練らねばならない。
戦争には抑止力が何よりも重要だ。また戦わずに勝つ戦略が最も優れている。ただし「戦うしかないのであれば勝たねばならない」という指摘はクラウゼビッツの戦争論の重要なポイントだ。平壌はモスクワと北京を巻き込み、韓米日と朝中ロの新冷戦の構図を形成しようとしている。ただし訓練された軍事力を基盤にスマート外交を進めていけば、敵は「致命的打撃」はもちろん「局地的な挑発」も強行できなくなるだろう。
南成旭(ナム・ソンウク)高麗大学統一外交学部教授、元国家安全戦略研究院長