ソウルのとある中絶手術専門病院はきょうも大繁盛【コラム】

 今月2日、ソウル市東大門区のA産婦人科。20代の女性3人が人工妊娠中絶手術の相談をしようと待っていた。3人のうち2人は妊娠30週以上、残りの1人は妊娠2-3週だという。中絶しようと考えている理由を尋ねると、「既に子どもが1人いるから、育てる余裕がない」「交際相手が望んでいないので、私1人では到底育てられない」という答えが返ってきた。

【グラフィック】 韓国のとある産婦人科 妊娠中絶手術の流れ

 ソウル市中区のB産婦人科では妊婦の健康状態によって30週以上の中絶手術が可能だと宣伝している。同じ日、B産婦人科には2人の妊婦が中絶手術を待っていた。同医院の関係者は「1カ月平均で10代の女子学生3-4人の中絶手術をしている」と語った。

 年が明けて訪れた中絶手術専門病院は盛況だった。特に「30週以上」の妊娠末期の中絶手術は手術代が1000万ウォン(約110万円)を上回るのにもかかわらず、ひそかに行われている。A産婦人科の内部資料によると、同病院は毎年平均約400件の中絶手術を行っており、このうち約30%が妊娠30週以上の妊婦だという。ある医師はインターネット上に「30週以上の中絶手術も可能。病院の場所は電話相談後、詳しくお知らせします」という内容の広告を掲載した。この病院で行われている中絶手術の大半が30週以上の妊婦を対象にしたものだ。

 憲法裁判所は2019年に堕胎罪について憲法不合致決定(事実上の違憲だが、すぐに無効にすると社会的混乱が予想されるため、法改正前まで一時的に存続させるという決定)を下し、「妊娠22週」を中絶許容の上限と判断した。それ以降はどんな理由があっても中絶手術をしてはならないとしている。その上で、憲法裁判所は翌2020年末までに法改正をするよう注文した。ところが、韓国国会は4年たっても中絶許容範囲などを規定する条項を作っていない。このため、中絶手術が合法でも違法でもない中途半端な状態がここ数年間続いているのだ。立法の空白状態で処罰の根拠ばかりがなくなり、妊娠末期の中絶が行われているということだ。ドイツ・イタリアなど中絶手術を法律で認めている国々のうち、相当数で中絶手術が許容されているのは妊娠12週までだ。

 韓国保健社会研究院の「2021中絶実態調査」によると、中絶件数は2019年の2万6985件から2020年には3万2063件に増加しているという。中絶件数が増加している中、A産婦人科やB産婦人科のように「30週以上」の妊婦の中絶手術をする病院は数百キロメートル離れた地方からも妊婦が集まってくる「中絶の聖地」になった。また、違法な中絶薬物を流通させる犯罪も相次いでいる。昨年9月には、40代の女性が交流サイト(SNS)を通じてベトナム産の違法中絶薬を販売した容疑で捕まった。つまり、女性が合法的に中絶のための正常な医療サービス提供を受けられない可能性が高くなっているということだ。

 韓国は合計特殊出生率(1人の女性が一生の間に産む子どもの数)0.8人にも満たない超少子化国家だ。妊娠した女性、おなかの中の胎児が無分別な中絶手術のある環境に放置され続けるなら、今後どのような少子化克服対策に有効性があるのかと疑問を抱かざるを得ない。韓国政府と国会は、女性の権利と胎児の生命権を最大限守る案に関する議論をこれ以上、後回しにしてはならない。

チュ・ヒョンシク記者

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