「防疫措置違反で公開処刑」 北朝鮮で死刑の対象拡大=韓国白書

【ソウル聯合ニュース】韓国政府系シンクタンクの統一研究院は10日、昨年脱北した6人を含め、比較的最近まで北朝鮮に暮らしていた脱北者71人からの聞き取り結果を基にまとめた「北朝鮮人権白書2023」を発刊したと発表した。脱北者からは、新型コロナウイルス対策の防疫措置に違反したとして公開処刑が行われたという証言があった。韓国大衆文化の映像物などの所持・流布に対する監視と処罰が強化され、路上で抜き打ち検査が実施されることもあるという。

 統一研究院はこの白書で、北朝鮮が死刑を適用する罪名を増やし続け、住民の生存権を侵害していると指摘した。

 2015年に北朝鮮の刑法は国家転覆陰謀罪などの八つに死刑を科すとしていたが、22年の改正刑法では最高刑を死刑とする罪の数が11に増えた。世界的に新型コロナ感染が拡大していた21年に「非常防疫法」と「麻薬犯罪防止法」、22年に「反動思想文化排撃法」、23年に「平壌文化語保護法」と相次ぎ特別法を制定し、違反すれば最高刑として死刑に処すると明記した。

 昨年脱北した人は「(北朝鮮当局が)住民を集めた上で、防疫措置に違反した人たちを公開処刑した」と証言した。一方で、このところ公開処刑はほとんど無かったという証言も複数あった。

 白書は「脱北住民の証言を総合すると、2010年を前後して公開処刑が減少してはいるものの、消え去ってはいない」との見方を示した。処刑そのものが減少したのか、公開処刑だけが減ったのかに対する判断は示さなかった。

 北朝鮮政権が外部からの文化の持ち込みと情報の流通を厳しく統制し、北朝鮮住民の知る権利を著しく侵害していることも分かった。ある脱北者は「南韓(韓国)の録画物に対する取り締まりがとても厳しく、登校途中に突然、コンピューターや録音機、手電話(携帯電話)などを取り締まるといった具合」と語った。路上でのこうした取り締まりにより、19年に自身の息子は韓国の歌200曲を持ち歩いていたとして摘発されたという。 

 別の脱北者らも「南韓ドラマを見たことで労働鍛錬刑7カ月を科された」「中国ドラマに登場するファッションやヘアスタイルをまねた場合は金を渡せば処罰を免れることができたが、南韓の映像物のまねをすると処罰が厳重だ」などと証言した。

 北朝鮮社会で家父長制意識が薄れ始めているという証言もあった。その背景に、女性の経済活動が活発化し、家計を担う女性が増えたことが挙げられた。離婚率が上がったという指摘も多かった。ただし離婚の法的手続きは複雑で、成立させるには賄賂が必要だという。

 金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長(朝鮮労働党総書記)の妹、金与正(キム・ヨジョン)党副部長の登場以降、女性の政治的な活動も活発になったようだ。22年の聞き取りでは複数の脱北者が、権力機関や支配側者の約3割が女性と話していた。

 白書はまた、無料の医療制度が事実上崩壊し住民の健康権が保障されていないと指摘した。脱北者の証言によると、賄賂を用意できなければ診療を受けるまで長期間待たなければならない。こうした状況から個人的に診療サービスを提供する「個人医師」を利用する住民が増えている。個人医師の中には医療機関に籍を置く有能な医師も多いという。

 医薬品不足に加え誤った医療知識が広がったことで、病気の治療に覚醒剤やアヘンなどが使われているという証言も多かった。医療用ではない薬物を常備している家庭が多いと話す脱北者もいた。

 統一研究院は1996年から毎年、韓国語版と英語版の北朝鮮人権白書を発刊している。

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