李代表は、韓国がいかなる世の中に存在しているのかを知らず、民主党は、今がどんな時代なのかを知らないらしい。ウクライナとイスラエル・パレスチナはとても近く、パレスチナ・イスラエルは台湾海峡や韓半島と連動して動く。イスラエル・ハマス戦争が起きるや、米国はウクライナに送ろうとしていた数十億ドル(数千億円)の軍需支援をイスラエルに振り向けた。米国は、ウクライナには戦争を「継続する」武器を送り、イスラエルには戦争で「勝利する」武器を送っている。
米国は、複数の戦争に同一の比重で対処することはできない。国力の限界があるからだ。台湾海峡で中国軍と米国・日本・台湾軍が衝突したら、米国の各戦争に対する優先順位は変わるだろう。これと同時に、あるいは時差を置いて韓半島で異常事態が起きたら、また優先順位がひっくり返るだろう。李代表は、韓国の大統領になろうとしている人物だ。そういう立場で、こうした世界と韓国が心配にならないのか。
少し前、李代表の「汚い平和の方が戦争よりまし」という言葉に、ある知人の話を思い出した。飛行機の中で、たまたま隣の席に座ったイスラエルの人に「テロのせいで不安でしょう」と言葉をかけたら、こんな答えが返ってきたという。「国があるから心強いです。私の両親のころは国がありませんでした。不安な暮らしじゃないのかとおっしゃいますが、ソウルよりは安全でしょう」。もちろん、隣の席の乗客がガザ地区のパレスチナ人であったらなら、違う答えが返ってきただろう。「あなたには国があっていいですね。私たちには国がありません。不安です」
イスラエル人の「心強さの根」も、パレスチナ人の「不安の根」も、国があるか、ないかの差だ。韓国人も35年間、国のない民族として生きた。国を取り戻し、大韓民国を興してから75年が経過した。韓国国民の80%以上は「大韓民国」で生まれた。彼らは、祖父・祖母には国がなかったという事実を知らない。国は元からあるものだと思っている。しかし国は、心を砕いて守り、念を入れて世話をしなければ崩れて消えてしまう、人工の産物だ。この事実を人々に気付かせるべき人物は誰か。それは、指導者である大統領と野党代表の役目だ。
イスラエルの人には、核爆弾の下で暮らす韓国の方がイスラエルより不安に見える。パレスチナの人にとっては、ガザ地区よりちょっと安全な場所が韓国だ。この事実を忘れたら、国が危うくなる。
姜天錫(カン・チョンソク)顧問