古今東西の歴史において、最高の権力者とは大抵が皇帝か将軍、宗教指導者だったが、中には例外もあった。その主なものは富豪たちで、15世紀のヨーロッパのメディチ家が代表的だ。フィレンツェのメディチ家は15世紀以降、300年近くにわたり西ヨーロッパの実権を握っていた。金融業で築いた富を基に4人の教皇とフランス王妃を輩出し、強大な力を行使した。レオナルド・ダ・ビンチ、ミケンランジェロなど数多くの芸術家のスポンサーになってルネサンス時代を開くなど、「文化権力」の機能もあった。
16世紀の中部ヨーロッパでは、ヤーコプ・フッガーのフッガー家が実権を握った。フッガー家はドイツ地方の「免罪符」販売代金をローマに運ぶ金融業で富を蓄えた。ハプスブルク王家との政経癒着を通して鉱山の開発権を独占し、欧州における金・銀の最大の供給者となった。ハプスブルク帝国の領土拡大戦争の裏には常にフッガー家の財政支援があった。
19世紀にはユダヤ人の血筋のロスチャイルド家が欧州の政治と金融を左右した。ロスチャイルド5兄弟はロンドン、パリ、フランクフルトに拠点を構え、緊密な情報交換と多国籍投資で富を築いた。英国のウェリントン将軍がナポレオンのフランス軍とワーテルローで戦ったとき、フランスの封鎖令を破って軍資金をひそかに英国軍に届け、英国の勝利を助けた。巨大な情報ネットワークのおかげで、英国軍勝利の情報を真っ先に利用し、捨て値の英国国債を買い集めて莫大な時価差益も得た。
19世紀の米国ウォール街ではJPモルガンが「金融の皇帝」として君臨し、世界の金融を支配した。彼は南北戦争での武器取引、鉄道建設、銀行業で巨万の富を得た。JPモルガン銀行は1907年の恐慌で銀行が次々と破産した際、救済資金を用意して危機を鎮めるなど、数十年にわたり米国の中央銀行のような役割を果たした。第1次世界大戦の後、廃墟と化した欧州各国政府は、再建資金の調達のため先を争ってJPモルガンを訪れて頭を下げた。
テスラの創業者イーロン・マスクが、ロスチャイルド、JPモルガンを凌駕する超国家権力者として浮上している。電気自動車で世界の自動車市場を覆し、スターリンク事業で世界の人工衛星の40%を持つ「宇宙権力者」となった。彼が米国政府の要請を黙殺してスターリンクによる支援を拒絶している間、ウクライナの戦争遂行は難関にぶつかっていたという。007シリーズ『スペクター』では、世界の通信網を握り、米ソ核戦争を誘発した後、支配する者のいなくなった世界を掌握しようとする稀代の悪党が登場する。イーロン・マスクが、ジョージ・オーウェルの警告する「ビッグブラザー」のような、コントロール不能の怪物になるのではないかと懸念する声まで上がっている。
金洪秀(キム・ホンス)記者