「こちらに来てください。まもなく守門将の交代儀式が始まります」
旗を持ったガイドが呼び掛けると、韓服(韓国の伝統衣装)を着たカンボジアの団体観光客約20人が列を成して移動した。17日午後2時、ソウル・景福宮の興礼門前にはさまざまな国籍の人たちが集まっていた。太鼓が鳴り、守門軍が整列を始めると、みなスマートフォンを高く掲げた。伝統的な帽子「笠子帽」とトゥルマギ(外套)姿で動画を撮影していたドイツ人のアメ・ハインズさん(31)は、「兵士たちのきびきびした動作に魅せられた」「コロナの流行が終わるのを待ってソウルを訪れたが、高いビルと昔の宮廷が都会のど真ん中に一緒にあって、魅力的だ」と話した。
■ホットな観光地として復活した景福宮
新型コロナウイルスの世界的流行で打撃を受けていた空の便が再び活気を取り戻し、世界中の観光客が押し寄せている。華やかな春の宮廷を楽しもうという韓国人観光客も大幅に増えた。星空の下、景福宮の敷地内をめぐる「景福宮星明かり夜行」も15日から始まった。予約を取るのが困難な宮廷見学プログラムだ。今年も予約開始からわずか1分で枠が埋まった。
景福宮の入場者数がピークに達したのは2019年。昌徳宮、昌慶宮などソウルの4大古宮と宗廟を合わせて入場者が1061万人となり、ソウルの古宮入場者数が初めて年間1000万人を突破した。翌年春の新型コロナ流行の影響で入場者数が激減したが、今年に入って本格的に回復している。外国人観光客は昨年第1四半期(1-3月期)の4834人から今年の同時期は13万4499人へと28倍に増えた。韓国文化財庁のチョン・ソンジョ宮陵遺跡本部長は「以前は中国人観光客が圧倒的に多かったが、欧州・南米・東南アジアなど国籍が多様化したのも新たな変化」と話した。
韓流ファンにとって、景福宮の勤政殿は「BTS(防弾少年団)のステージ」だ。朝鮮王朝時代に王の即位式が行われていた勤政殿の前で、BTSが韓服姿でパフォーマンスを披露し、その様子が2020年9月に米国NBCの人気トーク番組『ザ・トゥナイト・ショー』を通じて全世界に伝わった。この日景福宮で出会ったブラジル人女性は「YouTubeで公演の動画ばかり繰り返し見ていたけれど、ついに景福宮に来られた」として「BTSは韓国の国宝」と叫んだ。
景福宮の守門将交代儀式は、韓国を代表する観光名物となった。米国の日刊紙ロサンゼルス・タイムズは2019年、「初心者のためのソウル観光」という特集を組み「K-POPは後回しにして、まず古宮から行ってみよう」「景福宮に入る前に、光化門の守門将交代儀式に20分を費やした方がいい」と提案している。
守門将交代儀式は27年前、ソウル市庁に勤務する一人の職員のアイデアから生まれた。当時、ソウル市文化課のイ・ノグン課長が「我々も英国のバッキンガム宮殿のように宮廷で守門将交代儀式を実施してみたらどうか」と提案し、徳寿宮の大漢門前で始められた。朝鮮王朝時代の守門将交代儀式に関する資料は残っていなかったため、当初は反対に遭ったが、サッカーのワールドカップ(W杯)開催直前の2002年5月、景福宮でも行われるようになった。
■「景福宮はクール」…熱狂する若者たち
MZ世代(1980年半ばから2010年までに生まれた世代)は「星明かり夜行」「景福宮・生果房」などの宮廷体験プログラムに熱狂する。生果房とは、朝鮮王朝時代に王や王妃たちが味わっていた茶菓子などを楽しむ体験プログラムだ。インターネットでは「生果房、(ネットでの)決済手続き中にチケットが売り切れた」「(大学などの人気講義の)受講申請よりも予約が難しい」などの書き込みが見られる。何度も予約に失敗し、昨年ついに「星明かり夜行」に参加したというチェ・ジョンイさん(26)は「宮廷の建物の間を歩いて昔の宮中料理を味わい、タイムマシンに乗って朝鮮王朝時代に入り込んだようなファンタジックな体験ができた」と話した。
ソウル大学のイ・グァンピョ教授は「若い世代は伝統文化を古臭いと感じるのではなく、新鮮でクールなもの捉えて楽しんでいる」「ソウル工芸博物館や国立現代美術館ソウル館、ギャラリーなど、周囲に文化施設など見どころが多いのも景福宮のいい所」と話した。