英米圏では、個人や組織の革新を語る際、「コンフォートゾーン(comfort zone、快適な空間)」という言葉をよく使う。コンフォートゾーンとは、気楽で慣れ親しんだ場所や生活方式、人間関係、自信のある分野を意味する心理用語だ。コンフォートゾーンは安定感を与え、既存の成功手法を続けられるようにもするが、冒険や挑戦、成長を妨げる妨害物というマイナスの意味で使われることの方が多い。心理学者らによると、人々はコンフォートゾーン内にいる「慣れ親しんだ不幸」と、そこを抜け出した「不確実な幸福」のどちらかを選ばなければならない場合、前者を選ぶケースが多いという。
【写真】親睦を深める韓国の金建希大統領夫人と日本の岸田裕子夫人
政治・外交分野でも、ひとたび構築されたコンフォートゾーンは内部の抵抗ゆえに壊すのは容易ではない。韓国では反日感情がそうだ。反日は不幸な歴史に根差した正当な情緒だが、いつからか、韓国の地平を自ら狭めるコンフォートゾーンと化した。高まる北朝鮮の核の脅威、中国・ロシアなど権威主義体制のブロック化といった国際情勢の変化を受け入れ、戦略を変えるよりは、100年前の弱小国植民地の悲哀と鬱憤(うっぷん)に閉じこもることを望んでいる。反日は政治的・道徳的優位という面で、依然として楽かつ安全な選択だ。
韓日関係改善は、急変するグローバルな安全保障・経済環境において韓国の動ける幅を広げるために、もつれた結び目を一つ解くようなものだ。韓日の過去史対立は、アジア・太平洋において安全保障同盟強化を目指す米国の戦略を妨害する厄介な存在だった。自由陣営は、今回の韓国の決断で北朝鮮の人権や大量破壊兵器に対応する国際協調が堅固なものになるだろうと歓迎している。韓国は今後、韓米の安全保障協力はもちろん、産業・通商戦争で大きな「てこ」を確保できるようになった。
問題は日本だ。日本の宿願は国連安全保障理事会常任理事国への進出だ。第2次世界大戦の戦犯という汚名をそそぎ、経済力にふさわしく世界の安全保障秩序に号令する超大国の隊列に加わるつもりなのだ。だが日本は、アジアで数百万人を死に追いやった過去史問題さえ静かにふたをすれば、米日同盟さえうまく回っていけば、その道が開かれると思っている。米国が単一の大国で群小の国は意見を出すにも容易ではなかった、20世紀の「パックス・アメリカーナ」時代に閉じこもった錯覚だ。現在、安保理常任理事国への進出をドイツと日本が狙っているが、国際世論においては明確な温度差がある。ドイツはナチスの蛮行を何度となく謝罪した反面、日本はまだ主だった政治家が靖国神社を参拝している。
もし日本が韓国のさまざまな転向的措置に応えないまま「もう過去史は済んだ」と考えるのであれば、それは自分たちのコンフォートゾーンから一歩も出ないまま未来の果実のみ取ろうとするものだ。最終的に、日本が望む「国際的な認定」という果実を得られなくなるとしたら、それは日本自身のせいだ。
韓国は国際社会でインパクトの大きい国だ。韓国が、多くの苦しみの中でコンフォートゾーンを先に抜け出した。そして日本もそれができるようにまず手を差し伸べたのは、勇気あるリーダーシップと評価されるだろう。世界は常に、枠を破る者を尊敬し、記憶する。
ニューヨーク=鄭始幸(チョン・シヘン)特派員