2015年1月、韓国国会で「セウォル号被害支援法」が与野党一致で可決された。出席議員181人のうち171人が賛成した。セウォル号事故の犠牲者を追悼し、遺族など被害者を物心両面で支援するための法案だった。 同法によって、韓国政府と自治体、公共機関、企業が財布のひもを緩めた。政府と京畿道がセウォル号惨事で犠牲になった檀園高校の生徒・遺族が住む安山市に2017年から22年までの6年間に配分した支援金だけで110億ウォン(約11億6,800万円)だ。安山市のほか、4・16財団など関連団体に支援された金額を合計すれば数百億ウォンに上る。特定事件の被害者支援にこれほど多額の国費を投入するのは珍しいことだ。それだけセウォル号事故による国民的衝撃と痛みが大きかったことを物語る。
ところが、犠牲者を追悼し、遺族の涙をぬぐい、心の傷を癒すために使われるべき国費の一部が、この6年間、とんでもないことに使われていた事実が最近明らかになった。資金横領、不正会計処理も確認された。安山市でセウォル号被害支援費数千万ウォンを受け取った一部の市民団体は、その資金でプール付きの豪華ペンションに遊びに出かけた。繁忙期にヨットに乗り、海上で飲み食いした。「現場体験」という名目で全州韓屋村、済扶島、済州島などに観光出張に行った。
事件を取材し、最後までわずかな希望を持って確認したことがある。「現場体験にセウォル号事故の遺族を連れて行ったのではないか」という点だった。まさかセウォル号被害支援費を遊興費に使ったはずはないと思った。しかし、問題の団体が訪れた「プールビラ」に遺族はいなかった。ある団体は支援金として、北朝鮮の金正恩(キム·ジョンウン)総書記による新年の辞、金日成(キム・イルソン)主席の抗日闘争の真実などのテーマでセミナーまで開いた。セウォル号と金正恩にどんな関係があるのか。安山市が選挙直前にセウォル号予算をマンション婦人会や「○○工房」「○○の会」など町内の小規模団体や自治委員会に集中的に100万-500万ウォンずつばらまいた状況も明らかになった。
セウォル号事故が起きた時、正義を叫び、被害者のために全てをなげうつかのように大口をたたいた政治家は一人や二人ではない。しかし、彼らは不思議なことにセウォル号支援金の不正支出事件には憤らない。沈黙に徹している。問題ではないと考えているのか、何か良心がとがめて話せないのか。
セウォル号追悼事業を行う財団法人「4·16財団」は昨年の内部監査で年間30億-40億ウォンに達する予算を浪費し、会計処理も不十分だという指摘を受けた。内部からも「金銭問題が続けば、財団の信頼性は勿論、事故被害者の名誉も失墜させる恐れかねない」という自省の声が上がった。今からでも政界はセウォル号事故のような災難を政争の火種にしようという考えを捨て、血税が無駄に使われないように制度整備に力を合わせるべきだ。
盧錫祚(ノ・ソクチョ)記者