「ヒウッ・キヨック・ヒウッ」は尹錫悦大統領当選直後の昨年3月29日、「韓米合同軍事演習に反対する大衆闘争を集中展開し、就任を控えた尹錫悦はもちろん米国にも強力な圧迫攻勢をかけなければならない」という内容の指令を受けた。尹大統領就任に先立ち、反米デモを展開しろという内容だった。同じ日には「民主労総4・3統一委員会、学校非正規職労組済州支部、建設労組済州支部をはじめとする労組と進歩運動団体を組織し、進歩政党候補を後押しする支持運動を展開せよ」という趣旨の指令文も受け取った。実際、民主労総済州本部は昨年6月の統一地方選の3週間前に当たる5月17日、済州道庁前でリベラル陣営の候補を支持する記者会見を行った。 スパイ防止当局は「ヒウッ・キヨック・ヒウッ」のメンバーが民主労総済州本部でどんな役割を果たしてしたのか調べているという。
北朝鮮は尹大統領就任の1カ月前に当たる昨年4月19日には「米軍基地撤廃、北南宣言履行」を掲げ、地域でさまざまな闘争を展開し、尹錫烈氏を糾弾排撃する社会的機運を高めることに力を入れなければならない」という指令文を発信。6月9日の指令文では特定メンバーの名前を挙げ、その人物が所属する組織を中心に「労組を結束させ反米闘争で先鋒的役割を果たせ」と指示した。昨年10月31日の指令文では「民主労総4・3統一委員会、民主一般労組連盟などリベラル運動団体を前面に出し、反保守団体の体制を組み直し、拡大改編する方法として、ろうそく団体を組織し、そこに地域の中道層を網羅させ闘争動力を確保せよ」とした。
北朝鮮が労働組織化を強調した背景と関連し、捜索令状は「(北朝鮮が)団結力、戦闘力の強い労働者を前面に立たせてこそ、他のすべての階級の先頭に立ち、大衆をけん引していけると指示した」と指摘した。スパイ防止当局は、A氏が北朝鮮の指令を受け、組織メンバーらと共に地域のリベラル政党と労働、農民運動団体の掌握を試みたと見て捜査している。実際、組織メンバーらが活動した政党、労働団体などは昨年、米国主導の環太平洋合同演習(リムパック)反対、済州海軍基地閉鎖記者会見などに介入した。また、北朝鮮はリベラル政党を「地下組織『ヒウッ・キヨック・ヒウッ』の合法的活動空間として利用し、選挙のたびに『反保守闘争』を進めろ」とも指示した。
「ヒウッ・キヨック・ヒウッ」は親北朝鮮活動を行った疑いも持たれている。19年2月、済州道で「北朝鮮映画上映式」を開き、北朝鮮映画「我が家の物語」を上映したが、主人公が日記帳に「私たちの父、金正恩(キム・ジョンウン)元帥様、私たちの家は党の懐」と書く場面などが出てくる。保安部門関係者は「北朝鮮の指令文には主体(チュチェ)思想、先軍政治、金正恩氏の偉大性宣伝事業推進なども主要指示事項に含まれている」と話した。
A氏を取り込んだ北朝鮮文化交流局は、労働党宣伝扇動部傘下の対南工作組織だ。北朝鮮政権樹立初期から対外連絡部、社会文化部、225局など名前を変え、スパイの韓国派遣などの任務を遂行してきた。1992年の韓国朝鮮労働党中部地域党事件、94年の救国前衛事件、99年の民族民主革命党事件、2006年の一心会事件、11年の旺載山事件などスパイ事件に介入した。
盧錫祚(ノ・ソクチョ)記者