習近平の独裁を完成させた中国では、常識では考え難い事件が相次いでいるが、その中でも耳を疑うのが「スマホ不審検問」だ。警察が街頭で大学生や青年たちのスマホを開き、反政府・デモ関連の内容がないかどうか検閲しているというのだ。当局の監視網を迂回(うかい)する仮想私設ネットワーク(VPN)でも入っていようものなら、スマホは押収、当人は警察署に連行されるという。21世紀の文明世界でこんなことが起こり得る国は、北朝鮮やイランくらいだろう。中国は、そんな失敗国家と肩を並べる全体主義の恐怖社会になった。
巨大中国のメガトレンドに関連して、外れた予測が二つある。一つ目は中国民主化論だ。中国を自由貿易秩序に編入すれば民主体制に転換していくだろう、という信念が西欧世界を支配していた。米国が2001年、中国の世界貿易機関(WTO)加入を積極支援したのも、こうした戦略的期待があったからだった。しかし経済発展が政治の民主化を引き出すという期待は、虚妄の錯覚であることが判明した。中国は世界第2位の経済大国へと跳躍したが、民主主義は訪れなかった。民主化どころか「習近平皇帝」が登場し、「中国化されたマルクス主義」を前面に押し出した。共産党が領導する中国式モデルで自由民主主義と体制競争をしようというのだ。
外れる可能性の高い二つ目の予測が、米中経済逆転論だ。中国が経済の総量で米国を上回るのは時間の問題とされ、その時期は2030年ごろと考えられてきた。しかし、最近になって懐疑論が大きくなった。年7-8%ずつ膨張してきた中国の高度成長の勢いが止まったからだ。2021年、中国の成長は3%にとどまった。新型コロナという要因もあるだろうが、根本的には、成長の動力が限界に到達したせいだ。隠れ不正、不動産バブル、高齢化などが絡み合い、中国の成長の勢いはますます萎縮が避けられない。「共同富裕」に代わって「未富先老(金持ちになる前に老いてしまう)」のシナリオが優勢になりつつある。
加えて、習近平の急速な左傾化路線が経済にブレーキをかけている。「中国式現代化」という名の下に市場を抑制し、共産党の統制を強化しようというのだ。中国指導部の口から「改革・開放」という言葉は消えた。代わりに習近平は内需中心、技術自立を打ち出した。自給自足を強化したいという意味だが、北朝鮮式の主体経済を連想させるという指摘まで出ている。失望した外国資金が逃げ出し、株価が揺らいでいる。中国の金持ちたちがシンガポールなどへ集団脱出している、というニュースも伝えられた。