台湾経済の発展の勢いは驚くべきものです。同じアジア四小龍の一つである韓国と比べるとなおさらです。
去年11月末、私は「4年後の2025年ごろ、台湾の1人当たり国内総生産(GDP)が韓国を上回るだろう」という記事を書きました。ところが、世界経済の激変期に台湾経済の疾走と韓国の低迷が重なり、逆転の時期が早まっています。
■台湾の1人当たりGDP、19年ぶりに韓国超え
国際通貨基金(IMF)は今月、22年の韓国の1人当たりGDPは3万3592ドル、台湾は3万5513ドルになるとの見通しを示しました。この予想が現実となれば、韓国は19年ぶりに台湾を下回ることになります。
台湾は今年の経済成長率予想、物価上昇率、通貨価値下落率などほぼ全ての経済指標が韓国より良好です。韓国が9月まで6カ月連続の輸出減少で300億ドルを超える貿易赤字を出したのに対し、台湾は400億ドルを超える黒字です。
両国の経済逆転は、半導体業種での勝敗が大きいと言えます。韓国の輸出の20%、台湾では40%を占める半導体は両国経済をリードする看板産業です。両国とも世界最大の半導体市場である中国への輸出に力を入れています。韓国の半導体輸出の60%が中国向けであり、台湾の対中輸出の半分を半導体が占めるという構造です。
韓国貿易協会の最近の分析を見ますと、年初来7月までの中国半導体輸入市場における韓国のシェア(19.6%)は2018年(24.4%)に比べ4.8ポイント低下し、台湾のシェアは29.4%から35.5%へと6.1ポイント上昇しました。 台湾の上昇幅は主要ライバル国で1位です。
半導体輸出不振の影響で、韓国の対中貿易収支は今年1-8月に32億ドルの黒字にとどまり、黒字幅は前年同期(158億ドル)に比べ79.8%縮小しました。逆に台湾は同じ期間に対中半導体輸出が20.9%増え、半導体だけで223億ドルの黒字を上げました。
メモリー半導体分野で20年以上不動の首位である韓国としては、プライドが傷つく出来事です。しかし、世界の景気サイクルが後退期に入り、メモリー半導体価格は続落する一方、台湾が世界市場の66%を掌握するファウンドリー(半導体受託生産)は好調で、台湾の躍進が続いています。
■蔡英文政権7年の親企業政策
注目されるのは、2010年代半ばまでは中小企業の集合体であり、中国の下請け工場に近かった台湾が2016年に就任した蔡英文総統の下で、世界最高の半導体生産基地に換骨奪胎したという事実です。蔡総統は7年間一貫して親企業・技術重視の国政運営を行ってきました。特に「我々を(中国から)守ってくれるのは米国の武器ではなく半導体工場だ」とする「シリコンの盾論」に忠実です。
台湾政府は半導体企業と協力し、160兆ウォン(約16兆7000億円)を投じ、北部の新北市から南部の高雄市に至るまで現在半導体工場20カ所を追加で建設しています。台湾経済部は今年9月、サムスン電子も開発に着手した次世代メモリー半導体である磁気抵抗メモリー(MRAM)の開発で台湾積体電路製造(TSMC)を支援すると発表しました。
今年から台湾の各大学は半導体専攻の新入生を6カ月ごとに採用し、休み期間を調整して年中無休で半導体人材を養成しています。昨年春に立法院(国会に相当)で可決された「国家重点領域産学協力および人材育成革新条例」により、昨年から今年8月までに台湾の国立大学6校に「半導体研究学部」が新設されました。
その結果、台湾の半導体産業はファブレス(設計専門)-ファウンドリー(受託生産)-後工程(封止・検査)で堅実な生態系を備えています。メモリー半導体分野で世界3位の米マイクロンの主力DRAM生産ラインも台湾にあります。メモリー半導体だけに偏る韓国とは異なり、台湾は半導体全分野で世界最強の陣容を構築しました。
半導体分野別に世界の10大企業を見ると、台湾はファウンドリーで4社、ファブレスでは3社、後工程では5社をそれぞれ保有しています。台湾の経済規模は21年時点で韓国の半分以下ですが、売上高10億ドルを超える半導体企業(28社)は韓国(12社)の2.3倍に上ります。