【コラム】「済州島の患者をドクターヘリで搬送」は美談なのか

【コラム】「済州島の患者をドクターヘリで搬送」は美談なのか

 「今、済州島には緊急心臓手術ができる病院はほとんどありません。事故に遭って心臓が破裂したら、ヘリコプターを飛ばして島から転院させるか、そのまま死ぬしかありません」

 先日、「危機の必須医療」取材中に会ったある胸部外科学会関係者の言葉だ。現在、済州島で心臓手術が可能な病院は2カ所で、そこには胸部外科医が2-3人ずついるが、24時間緊急手術体制を整えて当直を立てるには医師の数があまりにも不足している。さらに、人工心肺装置を使用しなければならない高度な心臓手術は専門の技術者が必要だが、済州島には全くいない。「『救急ヘリコプターを飛ばして島から陸部に患者を移送して救った』という美談は、実は恐ろしい『怪談』です。そこ(島)では救うことができなかったという意味ですから」

 小児の盲腸手術や先天性奇形などを扱う「小児外科」も深刻かつ危機的な状況だ。2021年に大韓外科学会が分析した「分科専門医支援現況」によると、昨年外科専門医になった約150人のうち、小児外科分野の志願者は0人、乳房外科の志願者は20人、肝臓・胆のう・すい臓外科の志願者は16人に過ぎなかった。小児外科学会関係者は「韓国の小児外科専門医の数は全国合わせて約50人にしかならない。日本は韓国の10倍、約500人だ」と語った。事実、今月13日に光州広域市で盲腸の手術を受けようとした3歳の男の子が手術できる病院を見つけられず、約200キロメートル離れた忠南大学病院に「遠征」した事例もあった。光州市・全羅南道地域の小児外科担当教授はたった1人だけだという。

 11年前のアデン湾救出作戦と李国鍾(イ・グクジョン)亜洲大学病院教授により注目された外傷外科分野はどうだろうか。保健福祉部は応急医療法を改正し、「圏域外傷センター」を地域ごとに設立することにした。365日・24時間、交通事故や墜落で大量の血が流れ、骨が複数カ所折れた患者でも、病院に到着すれば直ちに緊急手術が可能になると言った。11年間そうして作られたセンターは全国に17カ所。だがソウルにはまだセンターがない。外傷重症者外科学会の関係者は「最近はデリバリーのバイク事故などで重症の外傷患者がソウルでも頻繁に発生しているが、ソウル市民1000万人は重症外傷診療で蚊帳の外に置かれている」と指摘した。

 先月24日、勤務中に脳出血で倒れた看護師が、病院内に手術可能な神経外科医がいなかったため、死亡する事件が発生した。事件の核心は「つらくて訴訟のリスクが高く、お金にならない分野」の医師が不足しているということだ。政府は今月19日、あわただしく「忌避分野など必須医療に集中投資する」と明らかにした。医療界は「診療報酬だけ少しばかり引き上げる付け焼き刃的な処方では、医療の空白をすべて埋めることはできない」と対抗している。命を救う人々がメスを置いてしまうことのないよう、構造的な改革が必要な時期なのだ。

アン・ヨン記者

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