2016年に人工知能(AI)による囲碁プログラム「アルファ碁」が棋士イ・セドルに勝った際、敏感な反応を見せたのが司法界だった。AIが一番真っ先に浸透する分野が司法界だという危機感が広がった。司法関係者の多くは「人工知能が良心と常識を取って代わることはできない」と言ったが、AIは浸透領域を広げている。IBMが開発した人工知能弁護士ロス(Ross)は18年、米国の大手法律事務所に採用され、1秒当たり10億件を超える法律文書を分析した。米ウィスコンシン州最高裁は2017年、AIアルゴリズムデータに基づき、被告に重刑を言い渡した地裁判決が妥当だと認めた。AIが人間の判事に代わるのは、もしかしたら判事による裁判遅延のせいかもしれない。
【グラフ】韓国の裁判所における民事・刑事裁判(合議審)の一審平均処理期間
作家・鄭乙炳(チョン・ウルビョン)が1974年に書いた短編小説「ユクチョジ」には「刑事は集団で殴り、検事は頻繁に呼び出し、判事は引き延ばしを図る」というくだりがある。裁判遅延が警察による殴打ほど苦しいものだという風刺でもある。それから48年たった今、警察による殴打は消えたが、裁判遅延は相変わらずだという人が多い。
ある60代女性は昨年8月、暴力を振るう夫を相手取り離婚と財産分割を求めて提訴したが、初回審理は今年6月になってようやく開かれたという。判事の顔を見るまで10カ月を要したのだ。裁判がいつ終わるか見当すらつかない。財産分与は判決が確定しなければ、金銭は支払われない。専業主婦だったこの女性は、生計を立てるために雑用で稼がなければならなかったという。怠け者の判事が女性を苦しめた格好だ。
この女性だけではない。 全国の裁判所で2年以内に一審判決が出なかった長期未済事件が最近5年間で民事訴訟は3倍に、刑事訴訟は2倍に増えたという。ソウル中央地裁が5年以上判決を下していない「超長期未済事件」も約5倍に急増した。金命洙(キム・ミョンス)大法院長の就任後、高裁の部長判事昇進制度廃止、裁判所長候補推薦制導入などで判事たちが熱心に仕事をしなければならない理由がなくなったためだ。
「遅れた正義は正義ではない」という法言がある。 韓国の憲法は迅速な裁判を受ける権利を規定している。判事の裁量ではなく責務だ。充実した裁判も重要だが、明確な理由もなしに裁判を先送りするのは職務放棄だ。世界各国の裁判所には刀と秤を持った銅像がある。古代ギリシャ神話に登場する正義の女神ディケーだ。韓国の大法院庁舎にあるディケー像は、刀の代わりに法典を持っている。公平に審判を行うという意味だ。ここに時計やカレンダーも持たせなければならないのが現状だ。
崔源奎(チェ・ウォンギュ)論説委員