新任の尹徳敏(ユン・ドクミン)駐日韓国大使は8日、「日帝強占期の徴用被害者問題を解きほぐす『外交の空間』が必要」だとし「(外交的解決のため、韓国の裁判所が)現金化措置を凍結すべき」と語った。尹大使はこの日、日本主催の韓国特派員懇談会で「現在、徴用被害者訴訟の件は日本企業の資産が裁判所に差し押さえられた状態で、現金化の最終段階」とし、このように発言した。尹大使は、日本企業の資産を現金化した場合、「韓日関係がどうなるか想像したくないが、おそらく、韓国企業と日本企業の間で数十兆、数百兆ウォン(10兆ウォン=現在のレートで約1兆400億円、100兆ウォン=同じく約10兆4000億円)に達するビジネスチャンスが飛んでいくということもあり得る」と語った。韓国の裁判所が日本企業の資産を強制売却した場合、日本側が「自国企業の財産保護」という名目で報復措置を取りかねず、これが両国関係に最悪の状況をもたらすこともあり得るという懸念だと解釈された。
日帝強占期に日本企業によって連行され、強制労働に従事した徴用被害者の問題は、韓国の大法院(最高裁に相当)が日本企業の誤りを認め、賠償を命じる判決を下した。だが日本企業は自発的賠償を行わず、日本企業が保有する韓国国内の資産を裁判所が差し押さえ、間もなく競売などに付する予定だ。資産を売却して工面した資金で、被害者に賠償を行うというわけだ。これに対し日本政府および企業は「徴用被害者への賠償は請求権交渉の際に全て解決した」とし「韓日の条約が国際法的に有効なのだから、この問題は韓国政府が解決すべき」と主張している。
尹大使は「日本企業の資産が現金化されたら、被害者個人の権益にとって利益だろうか。少し違う考えもある」とし「差し押さえ中の資産というものはブランドや特許といったものだが、競売で十分な現金化がなされなければ、被害当事者が補償を受ける十分な資金を確保できないこともあり得る」と語った。その上で「被害者への補償という側面では、非常に少ないかもしれない」とも指摘した。
尹大使は、過去の政権の責任論の部分についても認めた。尹大使は「日帝時代の多くの被害者が、韓日国交正常化で血のにじむ恨(ハン。晴らせない無念の思い)を解くことができず、請求権協定では、その方々に帰すべき分を国が使ってしまった時代があった」と語った。国が外交と条約で個人の利益を侵害したのだから、政府が一定の責任を負ってこの問題を解決すべき、という論理だと解釈された。
だが「外交的努力で解決できる具体的な代案を提示してほしい」という質問には「多くの案を考え得る」としつつ「被害者の方々にとって最も利益が大きい方向で解決策を探す」と語った。
尹大使は「(駐日大使)信任状を受け取ったとき、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は『一日も早く、韓日関係が最も良かったころに戻ればうれしい』と言ったが、いざ日本へ来てみると、どこから手を付けるべきか分からないほどで、日本の冷ややかな空気が感じられる」としつつ「韓国の新政権登場を巡って日本側の期待感が高まっていることも事実であるだけに、このモメンタム(勢い)を生かさなければならない」と語った。
尹大使は「韓日は戦略的利害関係が最も一致する国」だとし「国連で行われた各種の決議案の賛否を分析した資料を見ると、韓国と日本は98%の一致率を示す」「韓米も98%は出ないのに、それほどに韓国と日本は利害関係や価値観がほとんど一致しているということ」と指摘した上で「戦略的利害は同じだが、歴史、領土、感情の問題、国民性の差異など地雷も多い」「地雷を怖がって何もしないより、地雷をできるだけ多く避けつつ前へ進みたい」と語った。
東京=成好哲(ソン・ホチョル)特派員