『ドゥーム:災厄の政治学』を出版した歴史学者、ニーアル・ファーガソン氏インタビュー
-昨年、米国はコロナで右往左往し、中国はコントロールに成功したという評価を受けた。
「メディアが米国の失敗を誇張したと思う。パンデミックはワクチンを開発して初めてコントロール可能であって、米国のワクチンは中国のワクチンよりはるかに効果的であることが明らかになった。しかもコロナは、中国共産党の閉鎖的な情報統制がなかったなら、パンデミックになる前にコントロールできていたはずの疾病だ。コロナが自然発生なのか実験室で作られたのかは副次的な問題だ。発生初期の段階で、中国共産党は問題を覆い隠そうとするばかりだった。チェルノブイリ原発事故でも見られる、共産主義政権の問題点だ」
-災厄は予想できず、従って災厄を経てより強くなる「アンチ・フラジリティー(anti-fragility)」を強調した。コロナ流行を経る中で、最もアンチ・フラジルだった国を挙げるとしたら」
「Aプラスの単位をあげられる国はない。韓国は(人口学的に予想される死亡者数を上回る)『超過死亡』がほんのわずかで、極端なロックダウン措置を取らなかったが、ワクチン接種が遅れて減点された。なので韓国は、現時点ではAマイナスだ。台湾は韓国よりワクチン接種が遅れているので、韓国より少し下に置かないといけないように思う」
-世界の気候変動対応戦略はどうか。
「世界は二つの理由で気候変動対応に失敗している。まず、中国が参加しないのに、意味のある炭素低減は難しい。また、天然ガスや新型原子力発電所によって電力を代替すべきなのに、ドイツなど欧州では脱原発政策を推進している。環境保護論者は脱原発を叫ぶ前に、科学から学ぶべき」。世界最大の炭素排出国である中国は最近、第26回気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)での「石炭火力発電の段階的廃止宣言」に、米国・インドと同じく参加しなかった。
-脱原発は答えではないというわけか。
「欧州式『グリーン・ニューディール』は大きな間違いだ。1980年代、キャンパスでは反核(anti-nuclear)運動が盛んだった。核兵器と原発、どちらも問題だという指摘だった。私はそのころから反核運動に反対していた。反核運動によって(低炭素発電が可能な)原発を建てなくなったことが、現在気候変動危機の深刻になっている原因の一つだ。彼らが誤った考えをしていたことは、極めて、極めて明白だ。今やわれわれは、脱原発政策は石炭業界を喜ばせるだけという結果を生んでしまいかねない。一部の環境運動家の資金は石炭業界から流れ込んでいるものではないかと、調べてみるべきだと思う」。ファーガソン氏は著書で「マルクス主義は一種の終末論で、破壊的気候変動に対する一部の主張も終末論的」と指摘した。
-パンデミックの渦中で原稿を書き上げた。著書を早く出し過ぎたのではないか。
「フランス革命直後に出版されたエドマンド・バークの『フランス革命の省察』は、今でも研究者らが参考にしている本だ。バークは著書で『伝統的な諸制度に対する攻撃という嫌悪すべき悪徳の寡頭制へ行き着くことになっており、どちらの風景を見ても、その果てにはただ絞首台のみそびえるばかり』と予測した。ルイ16世が処刑される2年前に、こうした予測を立てた。バークが著書を早く出し過ぎたと言えるだろうか。コロナを含め、災厄の歴史を書く理由は明白だ。われわれの失敗と誤りから教訓を得るのは、早いほど良いからだ」