バイデン政権に対しては先日のアフガニスタンからの撤収、さらにオーストラリアへの原子力潜水艦開発支援などを巡って同盟各国から「事前に十分な相談を受けていない」「今回も米国が(十分な相談なく)核政策を見直すのでは」など懸念の声が上がっているという。とりわけ米国のオースティン国防長官が先月ブリュッセルのNATO(北大西洋条約機構)本部を訪問した際、同盟国からのロビーが非常に激しかったことをフィナンシャル・タイムズは伝えている。バイデン大統領も20カ国・地域(G20)首脳会議に出席するため欧州を歴訪中だが、同盟各国の中にはバイデン大統領から直接話を聞こうする動きも活発だという。
核の先制不使用問題はオバマ政権当時から議論されてきた。オバマ政権は2010年「核兵器のない世界」を掲げ「核の先制使用禁止」を採択するか真剣に検討した。しかし実際はこのような政策の見直しは行われなかった。当時も日本など米国の核の傘に守られた同盟各国が懸念を表明し、さらに米国務省や国防総省など国内からの反対も激しかった。逆に2017年のトランプ政権発足後は米国務省が「核の先制使用禁止政策の危険性」という報告書を出した。
その後、バイデン政権発足後の今年4月、民主党所属のアダム・スミス米議会下院軍事委員長、米議会上院軍事委員会所属のエリザベス・ウォーレン民主党上院議員が「核の先制不使用原則」を法律に明記する法案を提出し、この問題を巡る議論が再びワシントンで活発になった。ただしバイデン政権はこの問題で明確な立場を示していない。一方でバイデン大統領がこの原則に言及しなかったとしても「核兵器の唯一の目的(sole purpose)」と呼ばれる原則を打ち出すとの見方も出ている。これは「米国の核兵器は在来兵器や生物化学兵器を除き、ただ核兵器による攻撃を受けた場合にのみこれに対抗するため使用できる」というもので、バイデン大統領がオバマ政権の副大統領だった当時から何度か強調した原則だ。ただし同盟各国からは「その場合も同盟国に対する防衛公約が弱まる」と懸念の声が上がっている。