友好国の間で特定の事案について意見の隔たりがあったとしても、メディアに公開される冒頭の発言では親しくやりとりしながら意見の一致を強調するのが一般的だ。ところがこの日は韓米双方共に全く異なる内容に言及したのだ。外交関係者の間では「最近の韓半島情勢について双方で大きな見方の違いがあることを示した」との指摘が相次いでいる。
実際に韓国政府は文大統領による終戦宣言の呼び掛けに金与正氏が前向きな反応を示したことについて「長く続いた膠着(こうちゃく)状態から抜け出すきっかけになった」と判断しているが、バイデン政権は単なる言葉にすぎない金与正氏の談話よりも、北朝鮮の真意を見極めることが可能な核・ミサイル開発に向けた「全力疾走」の動向に神経をとがらせているという。「北朝鮮は変わった」と体感するにはそれ相応の行動が伴わねばならないということだ。
金与正氏は関係改善の意向を示唆したが、これを行動で示す最初の措置は今なお断絶状態にある南北間の通信線復元だ。南北間で実質的な協議を行うにはまず連絡手段から確保しなければならないからだ。韓国統一部は前日、通信線復元を要求したことを公表したが、これもそのような次元での対応だ。ところが北朝鮮はこの日、韓国側からの午前、午後の通話の呼び掛けにいずれも反応しなかった。北朝鮮は13カ月にわたり断絶していた通信線を今年7月24日に突然復元したが、韓米連合訓練を口実にわずか2週間で再び断絶した。
金与正氏の談話を前向きなシグナルと受け取ることには警戒の声も根強い。韓国のある外交官幹部OBは「北朝鮮は以前から終戦宣言を巡る話し合いに積極的ではなかったが、それでも条件までは提示しなかった。ところが今回は金与正氏がいわゆる敵対視政策とダブルスタンダードの除去という条件を突き付けてきた」「表現は軟らかいが、実際の内容は後退している」と指摘した。これに対して青瓦台(韓国大統領府)の朴洙賢(パク・スヒョン)国民疎通首席はこの日CBSのラジオ番組に出演し、金与正氏が敵対視政策の撤回を要求したことについて「過去に比べて対話の余地をより能動的に示したと解釈している」と述べた。