85歳のAさんは今年2月、一緒に暮らす息子を警察に通報した。10年間虐待され、耐え切れず決心した行動だった。難病を患っているAさんは、失業対策事業や国民年金などでかろうじて生計を維持している身だ。ところがコロナの余波でAさんも息子も外出が減って家にいる時間が長くなると、ストレスが積み重なり、息子が「小遣いをもっとよこせ」と家の中で物を投げたり暴言を吐いたりするため、最後の手段を選んだというわけだ。警察はソウル市の南部老人保護専門機関に助けを求めた。この機関は3カ月にわたって息子の治療とカウンセリングを支援し、「生活経済の守り人」を派遣して家庭再建を手助けしている。
高齢者虐待の件数が年々増加し、韓国政府が苦しんでいる。保健福祉部(省に相当)が15日、「老人虐待予防の日」に合わせて発表した「2020年老人虐待現況報告書」によると、昨年の高齢者虐待の通報件数は1万6973件で、2019年(1万6071件)より5.6%増加した。単純な威嚇もあったが、実際に虐待と判定したケースは6259件で、2019年(5243件)より19.4%も増えた。ソウル市南部老人保護専門機関の担当者は「コロナで敬老堂、福祉館など高齢者が利用できる空間がなくなり、家で虐待の加害者と一緒にいる時間が長くなったせい」と説明した。
高齢者虐待が起きる場所は「家庭内」(5506件、88.0%)が最も多く、次いで療養施設などの生活施設(521件、8.3%)、さらに福祉館・老人亭などの利用施設(92件、1.5%)、病院(37件、0.6%)という順だった。
虐待を行う加害者は、被害者の「息子」である場合が34.2%と最も多かった。2019年(31.2%)に比べて割合も高まった。「配偶者」が加害者である割合も年々上昇し、5年前の2016年の20.5%から昨年は31.7%まで高まった。次いで機関(13%)、娘(8.8%)、他人(3.3%)、嫁(1.8%)の順だった。
高齢者虐待の被害者は、主に感情的虐待(4188件、42.7%)と身体的虐待(3917件、40.0%)を受けていることが判明した。高齢者当人の同意なしに財産を横取りしたり任意に使用したりする経済的虐待の事例も431件(4.4%)あった。
保健福祉部はこうした現況を反映して、高齢者虐待を予防できる老人保護専門機関を拡充し、高齢者虐待通報アプリ「ナビセギム」(高齢者の守り人)を配布して通報システムも強化したい、と表明した。