LDS注射器は、接種後に残るワクチン量を最大限減らし、ほかに比べてワクチン1本あたり1-2人多く接種できる注射器として知られている。新型コロナワクチン接種開始の約1カ月前に「十分な量のワクチンが確保できていない」と批判が出るや、政府はLDS注射器を大々的に広報した。
中小ベンチャー企業部は今年1月、「全羅北道群山市の医療用具メーカー、プンリム・ファーマテックが政府やサムスン電子の助けを借りて、ワクチン用LDS注射器を月産1000万本以上生産できるシステムを構築した」と発表した。当時の朴映宣(パク・ヨンソン)長官は「中小企業の技術力と大企業のノウハウ、政府の後援という官民協力の代表的成功モデル」と語った。続く2月18日には文在寅(ムン・ジェイン)大統領がこの会社を訪れ、「注射器の効率性を高度化し、ワクチンを20%節約できるようになった」「診断キットに続き、K防疫の優秀さをあらためて示した」と述べた。また、先月30日には洪楠基(ホン・ナムギ)経済副首相が訪問し、「韓国版ニューディールの精神をさまざまにうまく生かした貴重な成功事例だ」と言った。
ところが、いざとなると政府はプンリム・ファーマテックではなく、A社と新亜洋行からLDS注射器の納品を受けた。輸出を主とするプンリム・ファーマテックの注射器は1本当たり800-1000ウォン(約78-97円)前後であるのに対し、A社と新亜洋行の製品は1本当たり88-98ウォン(約9-10円)ほどだ。防疫当局関係者は「プンリム・ファーマテックの製品は高いため、国内接種には使用できなかった」と語った。
「不具合のある注射器」を供給していたA社は、現在注射器の生産を中止し、生産設備を変えているという。A社の関係者は「接種の初期に政府から早く生産しろと催促されたため、社員らは昼夜を問わず2交代制で作業をしなければならなかった。それで瑕疵(かし)があったようだ」と説明した。