しかし、勢いに乗っていた池江は、白血病という病魔と戦わなければならなくなった。抗がん剤治療を受ける間に髪の毛が抜け、毎日何度も襲ってくる吐き気に苦しんだ。副作用や合併症が続いたが、峠を越えた。2019年夏に造血幹細胞移植を受けて状態が安定し、その年の12月に退院するという小さな勝利を上げた。そして3カ月後の2020年3月に水泳を再開した。東京五輪出場は現実的に無理だと思い、4年後の2024年パリ五輪を目指した。
このころ、東京五輪が新型コロナウイルス感染拡大で1年延期された。池江は体力回復に努めた。「一日3食、食べること」を目標に、闘病期間中に約15キログラム減った体重を少しずつ増やした。昨年7月には東京・国立競技場に聖火が入ったランタンを手に登場、世界に希望のメッセージを伝えた。
池江は昨年8月の試合で復帰し、実戦の感覚を取り戻し始めた。今年2月7日の競泳ジャパン・オープン女子自由形50メートルでは2位になった。白血病の診断を受けて2年で挙げた成果だ。試合翌日、池江は病院のベッドに横たわっている2019年2月8日の写真を写真共有ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)「インスタグラム」にアップロードした。人生最悪だった日を振り返り、新たな覚悟を固めるためだった。それから2カ月後、東京五輪出場権獲得という奇跡を起こした。
国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長はSNS「ツイッター」に「オリンピアンたちは決してあきらめない。東京で会えるのを楽しみにしている」というお祝いのメッセージを送った。安倍晋三前日本首相もツイッターに「感動と勇気をありがとう」とツイートした。池江は自由形100メートル(決勝8日)と50メートル(決勝10日)に出場し、さらなる五輪出場権獲得に挑む。