ただし二人が口座の差し押さえによってただちに賠償金を受け取れる可能性は低い。北朝鮮制裁に詳しいジョシュア・スタントン弁護士はVOAの取材に「ワームビア一家が自動的に問題の口座にある資金を受け取れるわけではない」と指摘する。北朝鮮の海外資産は第三国の国籍を持つ者の名義になっていたり、北朝鮮に資金を融資し返済されていない第三国政府がすでに権利を主張したりしているケースが多い。利害関係が複雑になっているため、実際の執行には長期間の法的攻防が避けられないという。
それでもワームビア夫妻は巨額の費用をかけて法的手続きを続けている。フレッド・ワームビアさんは昨年11月に韓国を訪れた際「われわれの任務は北朝鮮が(人権侵害の)責任を取るよう世界中にある北朝鮮の資産を探し出し、これを確保することだ」と述べた。さらに「北朝鮮が全世界のどこからも資金を受け取れないようにするため戦う」とも明言していた。
二人は北朝鮮の石炭運搬船「ワイズ・アーネスト」が2018年4月に制裁違反の容疑で米国政府に抑留された際、この船舶に対する権利を主張し売却で得られた資金の一部を受け取った。また北朝鮮当局がドイツのベルリンにある北朝鮮大使館の敷地で運営していたホステルについても訴訟を起こし、今年1月にドイツの裁判所から営業中断の判決を勝ち取った。シンディ・ワームビアさんは当時「北朝鮮は(抑留する)子を間違った。わたしは死ぬまで北朝鮮政権を崩壊させようとするだろう」と述べた。金正恩政権が制裁を解除され、米国内の口座に凍結された資金を引き出そうとしても、ワームビア夫妻が差し押さえ申請をしておけば資金を引き出すことはできない。金正恩氏が最も神経質になる「金づる」を押さえられるということだ。
外交関係者の間では「北朝鮮は本当に引っ掛かった」との声が出ている。ワームビアさんは米オハイオ州に住む裕福で影響力のあるユダヤ人家系だ。3人の兄弟姉妹の長男だったオットー・ワームビアさんが北朝鮮によって22歳の若さで死亡すると、あらゆる人脈を使って報復に乗り出している。ある外交筋は「ワームビア夫妻は州知事レベルの大物政治家とも普通に電話ができる関係だ」とした上で「全世界のユダヤ人ネットワークから支援を受け、北朝鮮の資産を徹底して追跡している」と伝えた。