李さんは再びブローカーから電話を受け、列車とバスを乗り継ぎ、山東省済南市まで移動した。そこで採血とさまざまな検査を受け、今度は河北省ケイ台市(ケイは刑のつくりがおおざと)新河県に移動した。李さんが宜賓から移動した距離は2500キロメートルに及んだ。
新河県に到着した当日夕、李さんは黒い眼帯を着用させられ、車でとある空き家に到着した。そこは違法な腎臓摘出・移植手術が行われる場所だった。山東省、湖北省から来た医師と看護師が李さんの腎臓を別の患者に移植した。李さんは病院に行けないため、空き家で体の回復を待たねばならなかった。
目を覚ますと、李さんのそばには100元札の束が入った赤いビニール袋が置かれていたという。礼金の4000元を含め、4万9000元が入っていた。李さんはそこに7日間滞在した。食事には白米とスープ、野菜、饅頭(マントウ、蒸しパン)が出たという。
李さんは来た道をたどり、宜賓に戻った。李さんはいとこが残した債務を返済しようとしたが、中古車販売店の社長は受け取らなかった。それが腎臓を売って得たカネだと知ったからだ。李さんは1万5000元を姉に渡し、外地で働く母親の生活費と治療費の足しにするよう告げた。母親には真実を秘密にしてほしいと言った。残った約3万元は貯金した。
李さんは昨年2月、浙江省に戻り紙箱工場で働き始めたが、仕事中に倒れた。医師は腎臓が一つしかないので、徹夜の仕事や激しい運動はできないと告げた。
新河県の公安当局は昨年末、19年8月から11月にかけ、李さんの腎臓をはじめ、9回の違法な腎臓移植手術を行っていた組織の14人を逮捕した。うち5人は懲役4-7年の実刑を言い渡され、9人は執行猶予となった。
後から事情を知った李さんの父親は息子とともに追加賠償を求めている。しかし、弁護士は「自発的に行ったことなので賠償は難しい」と話した。李さんは4万9000元を受け取ったが、臓器密売組織はそれを55万-60万元で売っていたという。