あれから60年、民団(在日本大韓民国民団)中央本部は11月13日、「北送60周年」歴史的検証特別シンポジウムを開き「北送は『事業』ではなく『事件』であり、北朝鮮と朝鮮総連による犯罪」との立場を表明した。日本政府に対しては、拉致問題と同じく北送問題にも声を上げるよう訴えた。北送事業が始められた当時、北朝鮮は韓国戦争(朝鮮戦争)による極度の労働力不足を解消するため、そして日本政府は社会の最下層民である在日韓国人に対する治安負担と財政負担を減らすために、両国政府は互いに手を取り、背中を押し合った。これに関わった日本人たちは、金日成主席が率いる北朝鮮がまさか生き地獄であるとは夢にも思わなかった、と主張する。しかし、現在公開されている国際赤十字社の文書には、日本政府の偽りと欺瞞(ぎまん)だけが赤裸々に記載されている。日本政府が北送を決めた当時の首相である故・岸信介氏は、安倍晋三首相の母方の祖父に当たる。文書によると、故・岸元首相は「南朝鮮の反発を避けるために、国際赤十字社の協力が絶対的に必要だ」と発言したという。「北送事業」に人道主義というオブラートを着せるためだった。小泉純一郎元首相の父である故・小泉純也議員(当時自民党)は「在日朝鮮人帰国協力会」の代表委員の資格で北送をたき付ける中心的役割を果たした。日本の左派知識人と全てのメディアが相づちを打った。初の北送船が北朝鮮に向けて出港してすぐに手紙が途絶えるなどの事態が発生したものの、日本政府はむしろ北朝鮮政府に北送の規模を1週間に1000人から1500人に増やすよう要請している。
在日韓国人の北送は、冷戦時代の自由陣営から共産陣営に異民族を追放した唯一のケースだ。「人種の清掃」と何ら変わらない国家犯罪との指摘もある。終戦前の日本軍による慰安婦や徴用工の問題には怒りをあらわにしながらも、戦後に行われた9万3000人の在日韓国人の北送については、なぜ口を開こうとしないのか。韓国は、国家的な「恥」の記憶を葬り去ってしまった。日本の過去史について問題視しようとするのなら、在日韓国人の北送について反省と謝罪を要求するのが先決ではないか。しかし、今ではこれもどうしようもないことだ。世界最悪の独裁者を手厚く接待するために、韓国へ帰化する意思を表明した脱北青年2人を生きた供え物にでもするかのように強制送還する集団が権力をほしいままにしている。在日韓国人の北送問題解決などは、期待することさえままならないのだ。
チョン・グォンヒョン論説委員