1990年代、台湾がドラム缶数千本分の核廃棄物を北朝鮮に運び込もうとした。金正日(キム・ジョンイル)政権は、数千万ドル(1000万ドル=現在のレートで約11億4000万円)の外貨欲しさに、これを北朝鮮内部のどこかに埋めようとした。きちんと埋めるはずもなかった。非武装地帯(DMZ)に埋めることもあり得た。台湾と北朝鮮の取引は、国際社会の慣例上あり得ないことだった。金泳三(キム・ヨンサム)政権は、韓国系の米下院議員キム・チャンジュン氏にSOSを送った。キム議員は、当時米国政界の実力者だったギングリッチ下院議長を動かした。核廃棄物取引に反対する決議案が米下院を通過した。台湾はその日、北朝鮮との核廃棄物取引を中止した。韓国政府は、米下院議員1人の力を実感した。
米国連邦議会上院は州ごとに2人ずつ均一に選ぶが、下院は地域ごとの人口比例で選出する。下院議員1人は地域住民72万人を代表する。経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均は、議員1人当たり人口9万9000人ほどだ。米国において、下院はカネ(予算)に関する権限を持ち、上院は人事の権限を持っている。下院の協力なしに大統領が着手できることはほとんどないと言っても、過言ではない。
連邦議会下院に韓国系議員が2人同時に進出したことは、115年の韓人移民史における一大事件だ。今回の中間選挙では、カリフォルニア州39区のヨン・キム氏(56歳、共和党)に続き、ニュージャージー州3区のアンディー・キム氏(36歳、民主党)も当選が確実になった。ハワイのサトウキビ畑で家畜のような扱いを受け、重労働をしていた初期の移民者の血と汗の上に立ち、韓人の位相は比べものにならないほど高くなった。
米国において韓人は、特有の誠実さと教育熱を基盤として急速に主流社会で定着したが、唯一、政界への進出だけは遅かった。韓人会の会長を務めた経験を持つある在米韓国人は「中国系はチャイナ・タウンに集まって暮らし、票を結集する。だが韓人は、マイノリティー地区でカネは稼ぐものの、生活面では学区が良い白人地域に散らばって暮らすため、票が集まらない」と語った。そのため、選挙に対する関心も高くはなかった。韓人の有権者登録率は55%にすぎず、アジア系の中でも低い方に属する。白人の登録率は75%、黒人は65%程度になる。だが今回の「下院2人当選」で、韓人の選出職挑戦が一段と活発になりそうだ。
「韓国系」とはいうものの、二人は米国人で、米国のために働く米国議員だ。しかし血は争えない。二人は、ある決定的な瞬間において、母・父・祖母・祖父の国のための通路になってくれることだろう。知韓派議員が集まる「コリア・コーカス(政党内グループ)」に両議員が加勢することになった。民主・共和、両党1人ずつ布陣することになり、一段と輝かしく見える。
イム・ミンヒョク論説委員