BOEが量産に成功したのは10年後半だった。ハイディスを買収してから7年、最初の生産ラインを設けてから5年目のことだ。しかし、量産が始まると規模の力が働き始めた。サムスン、LGディスプレーをはるかに下回る単価で中国の内需市場を掌握した。12年には黒字転換し、14年には世界5位の液晶パネルメーカーに浮上した。
液晶パネルは技術よりも資金確保が難しい業種だ。生産ラインへの投資と技術確保に巨額を投じる必要があるのに対し、投資回収には10年近い長い歳月を要するからだ。
BOEが韓国を追い越した最大の原動力は、中国政府による資金支援だった。BOEは11本の生産ラインを保有するが、そこに投じられた資金は3000億元(約4兆9000億円)に達する。韓国が日本の液晶パネル産業を追い越した際に使った不況期の投資戦略もそのまま生かした。08年の世界的な金融危機などでサムスン、LGディスプレーが投資をためらう間、果敢に次世代の生産ラインに投資を行い、両社を追い越すことに成功した。
ほかにも根本的な要因がある。韓国の液晶パネルメーカー幹部に韓国が中国を再びリードすることはあり得るのか尋ねると、「不可能だ」との答えが返ってきた。潤沢な政府支援、資金力、巨大な内需市場なども大きな壁だが、人材確保面で中国にはかなわないとの指摘だ。
BOEは年間6000-7000人を新規採用するが、うち60%が修士以上だ。北京大、清華大など名門出身も数多い。中国が年間で輩出する理系の修士、博士は約30万人で、昨年の韓国(3万7700人)の8倍に達する。液晶パネルで始まった韓中の産業逆転減少が半導体など他の業種にも拡大すると懸念されるのはまさにそのためだ。