ますます領土が狭まる文学の現実の中で、読者の注目や喚起を求める学士院の奮闘自体をおとしめる必要はないだろう。しかし、われわれは経験で知っている。簡単に忘れられることを望む人はまれだが、かといって面倒な形で記憶されることを望む人はもっとまれだということを。
再び、文芸創作科出身者としては初のノーベル賞受賞者に戻ろう。カズオ・イシグロは、通知を受けた直後のインタビューで、ロックミュージックに熱狂していた13歳のころから自分のヒーローはボブ・ディランで、ヒーローに続いて賞を受けることになり光栄だと語った。ボブ・ディランとノーベル文学賞との間で発生した騒音や雑音を、この作家は知らなかったのだろうか。そんなことはないだろう。
アレクシエービッチとボブ・ディランを経て、カズオ・イシグロに戻ってきた学士院の選択を支持する。記者が最も好きな今年の受賞者の作品は、1989年に出た『日の名残り』だ。良い小説がいつもそうであるように、幾つもの解釈ができるが、権威に対する盲目的追従と尊敬だけで一貫していた作中の英国執事を反面教師として描いたとも読める。人生と文学に対するカズオ・イシグロの態度を尊重し、彼の受賞をあらためてお祝いする。