【コラム】「何事も規則通り」 日本社会の威力

 そう思っていたある時、「何事も規則通り」の威力を実感する出来事があった。2週間ほど前、中学生の娘が韓国の祖母宅に遊びに行った帰り、空港から自宅に戻る途中のどこかで財布をなくした。娘は自分が財布をなくしたことすら気付いていなかったが、それを拾った日本人が東京都内の警察署に届けてくれたという。警察署では学生証に書かれている住所を見て「2週間保管した上で遺失物センターに送る」という通知文を送ってくれた。

 私たち親子は通知文を受け取りながら時間がなくて先送りしていた。夏休みになってからやっと「きょうこそ必ず!」と家を出た。通知文をきちんと読んでいなかったので気付かなかったが、私たちが行った日は、財布が警察署に届けられてちょうど2週間目だった。財布はすでに規則に従って遺失物センターに移送されたという。センターの業務時間は午後5時15分までということで、2人でタクシーに乗ってあわててそこに向かった。だが、30秒遅く着いたため、中からドアに鍵がかけられた後だった。

 仕方なく翌日、再び娘だけを行かせた。娘はつたない日本語で「財布を見つけてくださった方と警察官の方にお礼を言いたい」とクッキーを差し出した。しかし、警察官は受け取りを断った。その時、別の用事で都内にいた私に娘がスマートホンの無料通信アプリで経過を報告してきた。

 「財布を拾ってくださった方は謝礼の受け取りを希望していないそうで、連絡先を書いて行かなかったって。お巡りさんは規則上、何も受け取らないそうです。交通系ICカード、学生証、5000円、うちの鍵は全部そのままありました」

東京=金秀恵(キム・スへ)特派員
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