【萬物相】韓国社会の現実にそぐわない「老人」の基準

【萬物相】韓国社会の現実にそぐわない「老人」の基準

 70歳過ぎのある男性は、毎日3食を自宅で食べる。これにいら立った妻が「敬老堂(高齢者福祉施設)に行って昼ご飯を食べて、遊んでくればいいのに」と言うと、男性はかぶりを振った。なぜ、と尋ねた妻に男性が一言。「敬老堂に行ったらヒョン(年上の男性)たちにこき使われる!」

 一昨年、ラジオでこんな話が紹介された。笑い話ではあるが、高齢社会の一面を伝えている。韓国政府の実態調査によると、年配者が自分を「老人」だと考えるようになるのは70歳ごろだ。70代半ばを過ぎてようやく「ヒョンたちの目を気にせず」敬老堂に出入りできるという。実際、今の時代、60代を老人と呼ぶことに誰も頷かないようだ。

 韓国における高齢者の法的基準は満65歳だ。世界保健機関(WHO)もこの年齢から高齢者と見なす。国際基準には沿っているが、高齢社会の現実とは隔たりがある。基準を上げればよさそうなものだが、簡単なことではない。基礎年金やシニア優待のような高齢者優遇を受けられる年齢が遅くなるという問題点がある。国民年金の受給年齢も上がる可能性がある。4年前、政府が高齢者の基準年齢引き上げを「中長期対策」として発表したところ、大きな批判を浴びた。「国家的抵抗に直面する」と脅した団体もあった。

 小幅ながら基準年齢を引き上げることに成功したのが米国だ。すでに30年ほど前から、年金の受給年齢を段階的に引き上げ始めた。現在の50歳以下は67歳を過ぎてから年金を受給する。65歳以上の米国人のうち、療養施設で暮らす人は4%にとどまるという。85歳以上に限っても10%だ。それだけ米国の高齢者が健康で、他人の手助けなしでも暮らせるということだ。それゆえ、基準をさらに引き上げるべきだとする声もある。もちろん、米国は敬老意識が相対的に高くないため、こうした変化が韓国よりも容易なのは確かだ。

 そして今度は、日本政府がチャレンジするようだ。内閣府が高齢者の定義を現行の65歳から70歳以上に引き上げることなどを提案する報告書を近く公表すると、日本で報じられた。10年前、日本政府がこの問題に手を付けたことがある。75歳を基準に「前期高齢者」と「後期高齢者」に分け、医療費の負担に差を付けた。その後、高齢者たちが背を向け、政権が交代した。安倍晋三首相の支持率が高いため、再び難題に取り組もうとしているようだ。

 実際、日本は着実に土台を築いてきた。会社の定年を60歳から65歳に引き上げたのが3年前だ。定年で退職した人を企業が再雇用すれば補助金も支給する。「老人という言葉をまずなくすべきだ」と言う人もいる。意識と土台から変えていこうということだ。

鮮于鉦(ソンウ・ジョン)論説委員
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