かつて朝鮮総連で宣伝部長も務めた元活動家、高忠義(コ・チュンウィ)氏(71)は昨年10月、東京で開かれた総連傘下の商工会の70周年式典で、総連に5つの変化を求める「提言書」を配布した。▲故・金日成(キム・イルソン)主席と故・金正日(キム・ジョンイル)総書記父子の肖像画を総連事務室から撤去すること▲日本人拉致被害者全員の解放と北朝鮮に渡った在日朝鮮人・日本人配偶者の自由往来実現▲総連組織綱領にあった核兵器禁止項目の復活▲系列金融機関を通じて消えた在日同胞の莫大(ばくだい)な財産の行方の解明▲総連幹部の朝鮮労働党からの離党または非党員の幹部就任―の5つだ。
総連側は提案書を即座に回収したが、波紋は大きかった。高氏は「総連に残っている人たちは総連が悪いとは言えないため、私が言った。総連はかつて、私の全てを捧げた組織だが、今の北朝鮮は女子中学生がテレビカメラの前で『大人になったら水素爆弾を作る科学者になりたい』と言うような国だ」と語った。
総連は1980年代末から90年代初めにかけ絶大なパワーを誇り、それこそ「平壌との現金パイプ」だった。在日朝鮮人が北朝鮮に渡った家族のために資金を送り続け、在日の企業家も朝鮮労働党と総連に献金した。総連でも独自に事業を行っていた。1994年、公安調査庁長官だった緒方重威氏は「朝鮮総連を通じ、北朝鮮に年間600億-800億円が流れ込んでいる」と明らかにした。また、総連系の朝鮮大学校で教員を務めた朴斗鎮(パク・トゥジン)コリア国際研究所長は「総連を通じて北朝鮮に流れ込んだ円貨は、数十年間の累計で1兆円にはなるだろう」としている。
だが1990年代半ば以降、総連は急速に力を失う。北朝鮮では数十万人が餓死している一方で、韓国では五輪とサッカー・ワールドカップ(W杯)が開催された。ただでさえ本国に懐疑的だった人々に2002年、衝撃を与える出来事があった。金正日総書記が自ら日本人の拉致を認めたのだ。総連の内部に詳しい在日朝鮮人は「全ては『日本政府のうそ』と言っていたのに、裏切られた気がした」と、当時を振り返る。
総連は当時、現金の調達に一層熱を上げるようになっていた。共産圏の崩壊と韓国の発展に焦った北朝鮮が核開発を目標に掲げ「個人の送金では足りない。企業からの献金を集めろ」と総連をせっついたためだ。総連は会員らの尻をたたく一方、独自のカネ稼ぎにも乗り出した。約40店のパチンコ店を運営し、不動産投機も行った。