翌日午後、ルーブル美術館の隣のカフェで会ったチョ・ソンジンは、リラックスした表情だった。3日と5日にウラジミール・アシュケナージが指揮するフィルハーモニア管弦楽団と一緒に英国の舞台にデビューしたのに続き、パリの独奏会も成功したからだろう。ショパン国際ピアノコンクールで1位になって以来、一日の睡眠時間が4-5時間というタイトなスケジュールをこなしているが、「ピアノ前に座りさえすれば疲れが吹っ飛ぶ」と笑った。 「気持ちが良いです。コンクールに参加したのは演奏機会を得るためでしたが、今決まっている演奏だけで60公演あります。年に約20回だった以前と比べると、3倍以上に増えました。準備は本当に大変なので、それを乗り越え、結果として示すことができる演奏旅行は僕にとって『休暇』と同じです」。
先月、ポーランドのワルシャワで1位として名前が呼ばれた時はぼう然とした。「それまでに名前を呼ばれていない人が4人もいましたから」。今も信じられないという気持ちは同じだ。「大勢の皆さんから連絡が来て、少しずつ実感しています。何よりも、もうコンクールに出なくてもいいということがうれしいです」。優勝賞金3万3000ユーロ(約440万円)は何に使うのかと聞いたところ、「21歳ショパン」は「そんなことは考えもしませんでした」と目を丸くした。
この9カ月間は毎日、ショパンと共に暮らしていた。パリにはショパンの墓や画家ドラクロワが描いた肖像画があり、行ってみたい場所が多い。ショパンにまつわる品がある美術館や遺跡・文化財は、彼の中の「ショパン」をより大きくはぐくんだ。ルーブル美術館は3時間ずつ5回見たが、大きすぎてまだすべてを見ることはできていない。