イさんに対する韓国国民の期待は、必要以上に高かった。この大きな原因は、韓国政府が「宇宙飛行士」について幻想を植え付けてしまったからだ。「宇宙飛行士」とは、大気が薄い高度100キロ以上の空間に上がり、戻って来た人のことを指す。1961年4月に宇宙飛行を行った旧ソ連のユーリー・ガガーリン以降、52年間で38カ国の514人が宇宙を飛んだ。ニール・アームストロングをはじめとする24人は、月面あるいは月の周回軌道まで到達した。ロシアは、「宇宙タクシー」と呼ばれるソユーズ宇宙船に希望者を有料で乗船させ、400キロ上空に浮かぶ国際宇宙ステーション(ISS)まで連れていく事業で大金を稼いでいる。日本のTBSは1990年、5000万ドル(現在のレートで約49億円、以下同じ)を支払って記者をソユーズに乗せた。2001年には、米国のデニス・チトーという富豪が自費で2000万ドル(約19億6300万円))支払い、8日間ほど宇宙生活を体験した。米国航空宇宙局(NASA)は、このように正式な宇宙任務には参加せず「事業契約」によって搭乗する人を、宇宙飛行士(astronaut)ではなく宇宙飛行関係者(spaceflight participant)に分類している。言うまでもなく、イさんもこちらに含まれる。
韓国の宇宙飛行プロジェクトは「世界で○番目に宇宙飛行士を生んだ国」というタイトルを手にするためだけに260億ウォンの税金を投じた、一種の「宇宙ショー」だった。宇宙ロケット「羅老号」も、これと大して違わない。ロケットの核心部といえる1段目のエンジンを、2300億ウォン(約213億円)払ってロシアから購入するという「お手軽な」方法を選んだせいで、韓国独自のロケット開発は現在スタートラインからやり直しているところだ。これは政策決定権者の過ちであって、イさんや羅老号実務者の過ちではない。イさんや羅老号に高額の資金を投じた経験から韓国が得るべき教訓があるとすれば、それは「イベントや手軽な方法などでは、決して『宇宙大国』の夢をかなえることはできない」ということだ。