ピストの片隅に座り込んだシン・アラムは、1時間にわたりペットボトルの水2本を手に座り続けた。時折足がしびれるのか、手で足をさする様子も見られた。ボランティアスタッフが、冷えたシン・アラムの体に大きなタオルを掛ける一幕もあった。シン・アラムは「あのときは本当に寂しかったが、国民の皆さんがそんな私の姿を見守ってくださり一緒に待ってくれたと思うと慰められるし、本当にありがたい」と語った。試合を見守った観客たちも、1時間近く遅れた次の試合よりも、納得のいかない敗戦を喫したシン・アラムに大声で声援を送った。だが、そのままピストを離れない場合、重い懲戒処分が下されるほか、3位決定戦に出られないだけでなく、国際大会への出場資格も失う可能性があるため、結局シン・アラムはやむを得ずピストを離れた。
わずか5分ほど休んで3位決定戦に出場したものの、すっかり冷え切った体で戦うのは無理だった。シン・アラムは「どんな精神状態で3位決定戦に臨んだのかも分からない。あの夜は2時間しか眠れなかった。どうして私にあんなことが起きたのか、とずっと考えていた」と語った。
シン・アラムは「時計の針を戻すことができるのなら、審判に対し『時間が動くタイマーを審判が自分で押してほしい』と要求したい」と語った。審判が合図を出してからタイムキーパー(計時係)が時計を動かすまでに、あまりにも時間がかかり過ぎていたからだ。
大韓体育会は、選手の実力ではなく大会運営の不手際によってメダルを逃したことについて、FIEに強く抗議した。国際フェンシング連盟も運営上のミスを認めた。だが、韓国選手団の抗議は、規定がないとの理由で退けられた。FIEは代わりに、判定結果を受け入れたシン・アラムのスポーツマンシップを高く評価し、ロンドン五輪の期間中に、シン・アラムに特別賞を授与するイベントを行うことを大韓体育会に提案し、大韓体育会もこれを了承した。ロンドンでは一時「シン・アラムは特別賞を受理する意向はない、と話している」と報じられた。だが、シン・アラムは「チェ・ビョンチョル選手の試合を観戦していた際、特別メダルの話について観客から質問されたため『特別メダルが何なのか私には分からないので、受け取るとか受け取らないとか言える立場にない』と答えただけ」と語った。