▲写真=UTOIMAGE
ロシアの特殊部隊員およそ800人は、米国のトランプ政権がウクライナに対してロシア軍の動きに関する情報提供を中断した先月初めの1週間、クルスク州で14.5キロのガス管を利用してウクライナ軍陣地の後方に奇襲攻撃を仕掛ける作戦を展開した。
【写真】酸素不足・ばい煙・厳しい寒さに苦しんだロシア兵たち
当時は、トランプ政権がウクライナ政府に対し、ロシア軍に関する情報提供を中断した時期だった。ドナルド・トラン..
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ロシアの特殊部隊員およそ800人は、米国のトランプ政権がウクライナに対してロシア軍の動きに関する情報提供を中断した先月初めの1週間、クルスク州で14.5キロのガス管を利用してウクライナ軍陣地の後方に奇襲攻撃を仕掛ける作戦を展開した。
【写真】酸素不足・ばい煙・厳しい寒さに苦しんだロシア兵たち
当時は、トランプ政権がウクライナ政府に対し、ロシア軍に関する情報提供を中断した時期だった。ドナルド・トランプ米大統領とJ・D・バンス副大統領が2月28日にホワイトハウスでウクライナのゼレンスキー大統領と会い、プーチン大統領の和平交渉への意志や、ウクライナの米国に対する感謝不足などを巡って記者団の前で舌戦を繰り広げた後のことだった。
トランプ政権は3月5日から11日まで、ロシア軍の動向に関するウクライナへの情報共有を一時停止した。ロシアはこの「情報暗黒期」を、ウクライナ軍に最大の打撃を与えるチャンスとして活用した。西側の軍事専門家らは、ロシアがこの「情報ブラックアウト」のおかげで、数カ月間進展のなかったクルスク奪還作戦で突破口を見出したと指摘している。これは英紙デイリー・テレグラフが8日に報じた。
ウクライナ軍は昨年8月、ウクライナの北側に位置するロシア南西部クルスク州への奇襲攻撃を敢行し、一時はソウル市の面積の2倍に当たる1300平方キロメートルの領土を掌握した。しかしウクライナ軍は今年3月初めには占領した地域の64%を失った。さらにロシア軍は、ウクライナ軍の補給拠点であるクルスク州スジャへのルートを遮断するという作戦を展開した。
ロシア軍は、ガス管を利用した奇襲作戦「ポトク(Potok、ロシア語で『流れ』を意味)作戦」をこの時期に展開した。攻撃ルートとして使った直径1.4メートルのガス管は、2カ月前までシベリア産の天然ガスを欧州に輸送するパイプラインの一部として使われていたものだ。
ロシアの国営メディアRT(ロシア・トゥデイ)によると、ロシア軍は3週間かけてガスを抜いて酸素を注入し、地上に通じる出口を追加で作り、弾薬と水、兵力を輸送する準備を進めた。
しかし、狭い空間に数百人の兵士が入って移動したため、多くの兵士が極度の寒さと酸素不足に苦しみ、メタンガスなどの有毒ガスを吸い込んで深刻な化学的肺損傷を負った。
ロシアの特殊部隊「アフマト」所属の軍医は、ロシア・メディア「プラウダ」に対し「肺が詰まったりひどく膨張したりして、症状が加速度的に悪化して肺炎や呼吸不全を起こした兵士も多かった」と語った。別のロシアの軍医も「こんな症状は初めて見る」と話した。
「ポトク作戦」の成果については、ロシア側とウクライナ側の評価が大きく異なっている。ロシア軍のワレリー・ゲラシモフ参謀総長は3月8日「ガス管の中から600人以上の兵士が一斉に飛び出して奇襲し、敵の防衛線を崩壊させた」と主張した。
ロシア・メディアとSNS(交流サイト)で紹介されたクレムリン(ロシア大統領府)によるバージョンでは「黒く汚れた悪魔のような姿のロシア軍が、スジャ北部のウクライナ防衛線の後方からなだれ込んで奇襲攻撃を仕掛け、銃弾が飛び交う激戦の末に敵『ウクライナ軍』を壊滅させた」と表現している。ロシアでは兵士たちは「戦争の英雄」として美化された。
しかし、ウクライナ軍参謀本部は同日「適切な時期に空中での偵察を通じ、ガス管を移動する敵の兵力を感知した。顔に黒いすすがべったりと付いた100人ほどのロシア兵は、飛び出すと同時に8割は我々の包囲攻撃を受けて即座にせん滅した」と反論した。ウクライナ軍はこのロシア軍の作戦について「数百人がガス管の中で窒息し、ばい煙によって中毒死する『虐殺』だった」と主張した。
実際、ウクライナ軍のドローンがガス管の中から出てくるロシア兵を撮影した映像が公開されたことを考えると、ウクライナ軍はある程度この「ガス管奇襲作戦」を予想していたとみられる。
ウクライナの戦況をモニタリングしている「ウクライナ・コントロール・マップ(UAControlMap)」はテレグラフに対し「しかしウクライナ軍も現場にはいなかったため、ドローンと砲による攻撃に頼った」と説明した。あるウクライナ軍将校は「ロシア兵が無線で『死ぬために送られた』と文句を言っていた」と明かした。
もし米国が情報を遮断しなければ、ウクライナはもっと徹底して備えられただろうか。奇襲攻撃があった翌日の3月9日、ロシア軍はスジャ北部の三つの村を奪還し、3月13日にはスジャ全域を完全に奪還した。現在、ウクライナ軍は国境に近いクルスク州の高地でロシア軍と交戦している。
ロシア・メディア「RT」は3月11日「前線での劇的な変化は、ロシアの極秘『ポトク作戦』のおかげだ」と主張した。しかし、西側の分析家たちは、スジャ地域からはすでにウクライナ軍が撤退中だったと述べている。軍事専門家でウクライナ保安庁の元要員だったイワン・ストゥパク氏は、テレグラフに対し「すでにウクライナ軍の状況は厳しく、兵力も消耗しており、数的にも圧倒されていた。米国による情報遮断は、そのような原因の一つにすぎない」と語った。
ロシアのある独立系ジャーナリストは、秘匿性の高いメッセージアプリ「テレグラム」に「まるで聖書に出てくる話のように、兵士たちが地面の中から出てきて祖国を救ったというストーリーだが、結局はロシア軍を英雄に仕立て上げるための神話にすぎない」と書き込んだ。
李哲民(イ・チョルミン)記者
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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