▲丁泰鎬・慶煕大学ロースクール教授、黄道洙・建国大学ロースクール教授、李鎬善・国民大学法学部教授(写真左から)
憲法裁判所の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領弾劾審判の結論が、早ければ今週にも出るだろうと見込まれている。憲法裁は2月25日に尹大統領の事件の弁論を終結させた後、3月17日の時点で20日にわたり結論を出していない。以前行われた盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領および朴槿恵(パク・クンヘ)大統領=いずれも肩書は当時=のケースでは、弾劾審判の終結から宣告までそれぞれ14日、11日かけていた。
法曹界からは..
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▲丁泰鎬・慶煕大学ロースクール教授、黄道洙・建国大学ロースクール教授、李鎬善・国民大学法学部教授(写真左から)
憲法裁判所の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領弾劾審判の結論が、早ければ今週にも出るだろうと見込まれている。憲法裁は2月25日に尹大統領の事件の弁論を終結させた後、3月17日の時点で20日にわたり結論を出していない。以前行われた盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領および朴槿恵(パク・クンヘ)大統領=いずれも肩書は当時=のケースでは、弾劾審判の終結から宣告までそれぞれ14日、11日かけていた。
法曹界からは、各争点で裁判官の意見が異なっていて評議に長い時間がかかっている、との解釈が出ている。結論を巡っても、憲法裁が尹大統領の弾劾訴追を認めるだろうという見方から、棄却あるいは却下するかもしれないという声まである。本紙は16日、それぞれ尹大統領の弾劾の認容、棄却、却下を予想する憲法の専門家の意見を聞いてみた。
■丁泰鎬(チョン・テホ)慶煕大学ロースクール教授「国会に軍隊を動員、違憲は明白…さもなければ戒厳が乱用されるだろう」【弾劾認容】
憲法裁判所は、裁判官8対0の満場一致で尹錫悦大統領の弾劾審判を認めるだろう。大統領が兵力を動員して現行憲法秩序を侵害したという点は明白だからだ。罷免を免れ難い重大な憲法違反だ。法理と常識に基づいて判断するなら、認めるほかに結論は出せないと思う。
非常戒厳の宣布は手続き的にも実体的にも憲法と戒厳法に背いている。特に、国会や中央選挙管理委員会など憲法機関を掌握しようとしたということが認められたら、波紋を避けるのは困難だろう。尹大統領は国会無力化、非常立法機構設置などを試みて新たな体制を構築しようとした。憲法守護の義務がある大統領が憲法を除去しようとしたのだ。
非常戒厳がわずか2時間半であっさり終わったように見えるが、これは計画が失敗したからであって、違法性が軽微だからではない。憲法裁がこれを重大な憲法違反と見なさないなら、将来、大統領が政治的危機に直面したとき非常戒厳を乱用する危険が高まる。最終的に戒厳が政治の手段として悪用されかねない「高速道路」が敷かれることになるわけだ。
尹大統領側が提起した弾劾審判の手続き的問題は「引き延ばし」戦略に過ぎない。弾劾審判は一般の刑事手続きとは異なる特別な懲戒手続きで、憲法裁はこれに反しない範囲内でのみ刑事訴訟法を準用すべきだ。刑事訴訟法にそのまま従わないことを問題にして審判手続きの正当性を揺るがすことはできないだろう。最近、裁判所が尹大統領の勾留取り消しを決定し、高位公職者犯罪捜査処(公捜処)の捜査の過程に対して一部疑問を提起したが、尹大統領が公捜処の捜査にきちんと応じたことはなく、弾劾審判の大勢には支障はないだろう。
現在、憲法裁は左顧右眄(さこうべん)して決定を下せずにいるわけではないと思う。盧武鉉、朴槿恵大統領のときは憲法裁がもっぱら大統領の事件にだけ集中できたが、今回は状況が違う。他の弾劾事件も同時に審理、宣告しているので、憲法裁のエネルギーが分散することは避けられないのだ。
一部の裁判官が細部の論理で意見の差を示すことはあり得るが、棄却の意見を出すほどではないと思う。国論分裂が既に深刻化している状況なので、憲法裁が憲法の守護者としての役割を尽くそうと思うのであれば、一つにまとまって声を上げる必要がある。それでこそ弾劾決定後の社会的混乱を最小限にすることができる。
大韓民国は「法治主義」に基づく民主主義国家だ。国民の多数が望めば何でもできるわけではなく、法の枠内で民主的手続きが守られなければならないということを意味する。大統領が国民の多数の選択を受けたとしても、憲法に違反したら責任を取るべきだ。
憲法裁判は政治的対立を文明的に解決する手段だ。結果が気に入らなくて服さないということでは、極度の混乱と内戦につながりかねない。弾劾が認められた場合、尹大統領の支持者らの喪失感が大きいことは間違いないということも理解している。しかし大韓民国の共同体の平和と維持のために、いかなる結果であろうと受け入れられる姿勢が必要だ。
■黄道洙(ファン・ドス)建国大学ロースクール教授「違法性は罷免するほどではない…証人や証拠調べも不十分」【弾劾棄却】
尹錫悦大統領の弾劾訴追事由の核心は国憲紊乱(びんらん)と戒厳法違反だ。昨年12月3日の非常戒厳当日に開かれた国務会議(閣議に相当)は、会議の時間がわずか5分で、会議録も作成されず、一定の部分で手続き的瑕疵(かし)があった。しかし大統領を罷免するほどに違法性は重大ではないと思う。残るは、国会封鎖・政治家逮捕などの国憲紊乱があったかどうかだ。
憲法裁判所は、尹大統領の弾劾審判の弁論を進めるに際して証人尋問の時間を90分に制限し、証人が否認した検察の調書を証拠として採択するということもやった。証人や証拠調べが不誠実な形で行われたのだ。特に、尹大統領側が「不正選挙疑惑」に関連して中央選挙管理委員会のサーバー鑑定を裁判部に3回も申請したのに、納得できる事由もなく全て棄却した。
心証を形成する証拠が足りず、国憲紊乱容疑に関連して法律違反・憲法違反があったか、その水準がどの程度なのかを判断できない状態だ。このように大統領を弾劾すべきかどうか判断する証拠が足りないと考える裁判官が数人いるものとみられる。裁判官8人のうち少なくとも2人以上は「証拠が足りない」と判断して棄却を決定するだろうと思う。
憲法裁が弁論終結から20日たつにもかかわらず宣告期日すら決められずにいることも、証拠不足が原因だと考えている。全般的に審理が不十分なせいで、裁判官の間で追加の弁論や証拠調べなどを巡って「生みの苦しみ」が生じている可能性もあるからだ。
一部の裁判官は、これまでの裁判の内容だけでも結論を出すに十分だと考えるかもしれないし、一部の裁判官は足りないと考えるかもしれない。このまま宣告を強行すべきかどうかを巡って裁判官の間で意見が分かれたのだろう。過去10年ほど憲法裁で憲法研究官として働いた経験に照らしてみると、十分に予想可能な状況だ。
こうした状況が続いた場合、尹大統領に対する宣告は文炯培(ムン・ヒョンベ)所長権限代行と李美善(イ・ミソン)裁判官の任期が切れる来月18日以降にずれ込むこともあり得る。宣告に関連した各裁判官の意見の相違が縮まらないのであれば、文権限代行の立場からは、宣告を急ぐ理由はない。万一、弾劾が認められなければ、進歩(革新)陣営のありとあらゆる非難が自分に向かうだろうと分かっているからだ。だから文権限代行と李裁判官が憲法裁を離れた後、馬恩赫(マ・ウンヒョク)憲法裁判官候補者が参加した裁判官7人体制で、弁論再開や宣告期日指定についての話し合いが新たに行われる可能性も排除できない。
一部では、国会側が尹大統領の弾劾訴追書から「内乱罪」を省いたことを問題にして「却下」を主張もしている。弾劾訴追書の内容が変わったのなら再度国会の議決を経るべきだったのに、そうしなかったのだから、弾劾訴追自体が適法ではない形で行われた-というものだ。一見では同意する。しかし却下決定に対しては、刑事上の「一度裁判した事件は二度と裁判しない」という一事不再理の原則が適用されないので、野党が再度弾劾案を発議することもあり得る。その分、社会の対立が深まる余地が大きい。
■李鎬善(イ・ホソン)国民大学法学部長「弾劾訴追理由から内乱罪を省きたいと言った時点で憲法裁は審理を中断すべきだった」【弾劾却下】
複数の政治的論争はさておき、もっぱら法理的にのみ見れば、尹錫悦大統領の弾劾審判は満場一致で却下されるだろうと思う。
憲法裁判所は、国会側が弾劾訴追理由から内乱罪を省きたいと言った時点で審理を中断すべきだった。内乱罪を撤回するのは、弾劾審判の事実関係の大部分を消すものであって、国会議員の票決権を侵害するものだからだ。
審理の過程でも尹大統領側の防御権は甚大に侵害された。憲法裁判所法は、進行中の捜査・裁判記録は要求できないように定めているのに、憲法裁は検察と警察、公捜処の内乱罪捜査記録を弾劾審判の証拠として採択した。裁判が確定してもいない捜査記録を証拠として採択し、予断を持って事実関係を究明するという行為が、既に大統領側の防御権を保障していないのだ。捜査記録に含まれる供述も相当数は信頼し難い、ということが弾劾審判で判明してもいる。
証人尋問の時間を1人当たりそれぞれ45分に制限したことも問題だ。捜査記録を提出した側(国会)と記録の内容に一つ一つ反論しなければならない側(尹大統領)の立場が、同じということはあり得ないではないか。その分、国会側が時間を稼いで持っていくことになる。供述において矛盾が判明した証人は、十分に尋問が行われるべきだった。
裁判部の構成も、既に公正ではあり得ない。李美善裁判官は実弟が左派寄りの「民主社会のための弁護士会(民弁)」傘下の「尹錫悦退陣特別委員会」の副委員長を務めており、鄭桂先(チョン・ゲソン)裁判官は夫が国会側代理人の金二洙(キム・イス)弁護士と一緒に仕事をしている。公正性を疑わざるを得ない状況だ。
欧州人権裁判所も、裁判長のおいが一方の弁護士である場合は裁判の公正性が毀損(きそん)される、と判定した。にもかかわらず憲法裁は、大統領側の忌避申請は棄却し、裁判官が自主的に弾劾審判を回避するよう大統領側が要請しても回答しなかった。会社で社員を懲戒するときも、こんなふうには進めない。裁判所だったら、こんな懲戒は無効だとして取り消し判決を下しただろう。職場内の懲戒も手続き的正当性を備えるべきなのに、まして国の未来を左右する大統領弾劾審判は、なおいっそう慎重に進めるべきではないだろうか。
憲法裁が弁論の過程で見せた姿は、世界のどこに出しても恥さらしな「K裁判」の結晶だ。より大きな問題は、今回の弾劾審判が「あしき先例」として残り、今後の審判に悪用されかねないということだ。弁論時の誤りを、今からでも正したいのであれば、却下決定を下さなければならない。却下決定を下せば、先例も残らない。
国民統合の側面からも、却下決定が最もよい。認容や棄却はいずれも大変な社会的分裂を呼ぶだろう。憲法裁は共同体的観点から決定すべきだ。
それでも憲法裁が却下ではなく本案の判断を下すつもりであるならば、非常戒厳そのものの違憲性についてだけでなく、非常戒厳宣布の背景も十分に検討すべきだ。「罷免すべきほどの違憲・違法があったか」という問題は、その基準が相対的であることは避けられない。大統領が非常戒厳宣布の理由として挙げた野党の立法権限乱用、選管サーバーの不正介入の可能性なども憲法裁が総合的に判断すべきだろう。
キム・ヒレ記者、兪鍾軒(ユ・ジョンホン)記者、パク・ヘヨン記者
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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