▲グラフィック=ヤン・インソン
東京から北に300キロ離れた福島県会津若松市にある富士通の工場には正門に看板がない。サッカーコート36面分の規模の大きな工場の入り口には、かつて「富士通セミコンダクター」という社名が掲げられていた跡だけが残っていた。
この工場は1980年代、世界トップ10に入る半導体メーカーだった富士通の主力工場だった。富士通の半導体事業は1990年代に入り衰退し、2013年にシステム半導体部門をパナソニックと..
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▲グラフィック=ヤン・インソン
東京から北に300キロ離れた福島県会津若松市にある富士通の工場には正門に看板がない。サッカーコート36面分の規模の大きな工場の入り口には、かつて「富士通セミコンダクター」という社名が掲げられていた跡だけが残っていた。
この工場は1980年代、世界トップ10に入る半導体メーカーだった富士通の主力工場だった。富士通の半導体事業は1990年代に入り衰退し、2013年にシステム半導体部門をパナソニックと経営統合した。「富士通の城下町」と呼ばれた会津若松も同時に没落した。工場周辺で会った住民は「1980年代には集落の住民の半分は家族の誰かが富士通で働いていたほど富士通の町だった。富士通の給料日には町全体が小さな祭りのように盛り上がっていた」と話した。
正門の向かい側にある600~700台収容の大型駐車場には数台が見えるだけで閑散としていた。駐車場の半分は完全に閉鎖され、太陽光パネルが設置されていた。9~10階の高さに左右100メートルを超える元半導体工場のクリーンルームでは半導体ではなく、環境にやさしい野菜を栽培している。富士通が2014年に空いていた半導体クリーンルームを再活用する方策として、野菜の室内栽培事業を始めたのだ。
富士通の工場は日本経済の長期低迷を意味する「失われた30年」の縮図と言える。1992年から30年間、年平均0.73%の低成長にとどまった日本各地で見られる姿だ。
■日本の不況初期と酷似
韓国の経済成長率はアジア通貨危機以降初めて3年連続(2021~23年)で経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国の平均を下回り、来年からは1%台の低成長が現実になると警告されている。しかし、それ以前から韓国経済の日本化を警戒する声は絶えなかった。2015年には国策シンクタンクの韓国開発研究院(KDI)が「人口構造と経済のすべての関連指標が20年のタイムラグで日本に追随している」と警告した。
KDIが警告を発してから10年近く、韓国は何を変えたのか。本紙が人口構造、潜在成長率、財政収支、家計債務、労働生産性など経済成長に影響を及ぼす主な経済・社会指標である「ディープファクター」24項目を分析した結果、その70%近くが日本の不況初期と似ているか、日本より深刻であることが判明した。10項目(42%)は日本の「失われた30年」不況初期と似た水準にあり、合計特殊出生率と高齢者扶養比率など6項目(25%)に至っては日本よりもさらに深刻な水準だった。
来年から2年連続で韓国の成長率が1%台にとどまるとの韓国銀行の警告が現実となれば、2024~2026年の韓国の成長率の推移は、日本の長期不況の入り口だった1991~1993年と酷似することになる。一国の経済の基礎体力とされる潜在成長率は韓国が2%で、1990~1996年の日本(2.8%)よりもはるかに低い。国内総生産(GDP)の26.5%を製造業が占め、製造業の競争力によって経済全体が揺らぐ韓国の産業構造も日本の1990年(26%)と共通している。
経済の好循環を支える人口構造は日本より深刻な状況だ。昨年韓国の合計特殊出生率は0.72で、1990年の日本(1.54)の半分だ。韓国の総人口は既にピークを過ぎたが、日本は長期不況に突入してからかなり後の2010年になってようやく下り坂を歩み始めた。
家計と企業など民間が借金を負っていることも似ている。昨年の韓国の民間負債の対GDP比は204.2%で、日本の1994年(214.2%)と同水準だ。民間の借金が多過ぎると、人々は財布のひもを緩めず、企業は投資をためらう。稼ぐ人が減り、使う人が増え、財政需要が高まることは避けられない。2020年から韓国の財政収支は本格的に赤字を計上し始めた。日本は1993年から毎年財政赤字が続いている。
■若い米国経済の道を歩むべき
韓国の選択肢は日本だけではない。米国は世界最大の経済大国だが、一人当たりGDPで日本を抜いたのは1998年(米国3万2853ドル、日本3万2423ドル)以降だ。その後の軌跡には差がある。米国は加速度的に8万ドルにまで達したが、日本は依然として3万ドル台だ。何がこんな違いを生み出したのか。
米国アリゾナ州フェニックスの都心から高速道路で北に約30分ほど行くと、約400万平方メートルの工場建設現場が広がる。クレーンが休む間もなく動く工場の側面に鮮やかな赤で「TSMC」という文字の看板がついていた。世界1位の半導体ファウンドリー(受託生産)メーカーである台湾の台湾積体電路製造(TSMC)が650億ドル(約9兆7600億円)をかけて工場を建設しているのだ。米国は2022年、半導体メーカーの米国内での投資を増やすため、半導体生産補助金など5年間で計527億ドルを支援する内容の半導体法(CHIPSプラス法)を制定した。これに伴い、サムスンなど世界屈指の半導体メーカーが補助金の適用を受けるために参入し、TSMCも先手の投資に乗り出した。巨大な規模の米国経済が着実な成長を遂げる背景には、新技術を通じて世界の革新的成長をリードする企業、外国企業の積極的な投資を誘致する米国政府の努力が挙げられる。「革新主導」と「投資誘致」という両輪で米国に新しい産業が花開く状況をつくっているのだ。フェニックス市はTSMC工場の建設のより、地元で最大8万人分の雇用創出効果を期待している。
専門家は米国と日本の道が異なる道を歩んだ理由について、米国が持続的成長の障害になる構造的要因を取り除くことに成功したからだと指摘する。ソウル大学行政大学院の朴相仁(パク・サンイン)教授は「イノベーション企業の進入障壁が高くない米国ではIT、バイオ、インターネットコンテンツ分野の新興企業が絶えず新たなチャレンジをしてきた。主に既得権益を握った大企業が新事業を試みる日本とは違った」と指摘した。ソウル大の金泰由(キム・テユ)名誉教授は「韓国も先端産業に対する圧倒的な支援と投資で米国のような道を歩まなければならない」と提言した。
会津若松(福島県)=成好哲(ソン・ホチョル)特派員、フェニックス=ユン・ジュホン特派員、金正薫(キム・ジョンフン)記者
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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