▲グラフィック=ペク・ヒョンソン
北朝鮮が今年5月から韓国に向けて飛ばし始めた「汚物風船」は、ごみを詰めたビニール袋に導爆線を巻き付けて作っていることが分かった。タイマー装置から出る火花によってテープ状にした導爆線を爆発させ、ビニール袋の中のごみをまき散らしているのだ。ごみ袋をくくり付けた風船には水素ガスが詰められていることも分かった。このような仕掛けがあるのなら、単なる「ごみ袋付きの風船」ではなく、特定の意図を持って制作した武..
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▲グラフィック=ペク・ヒョンソン
北朝鮮が今年5月から韓国に向けて飛ばし始めた「汚物風船」は、ごみを詰めたビニール袋に導爆線を巻き付けて作っていることが分かった。タイマー装置から出る火花によってテープ状にした導爆線を爆発させ、ビニール袋の中のごみをまき散らしているのだ。ごみ袋をくくり付けた風船には水素ガスが詰められていることも分かった。このような仕掛けがあるのなら、単なる「ごみ袋付きの風船」ではなく、特定の意図を持って制作した武器と何ら変わらないという指摘が出ている。
国会行政安全委員会のメンバーで韓国最大野党「共に民主党」の蔡鉉一(チェ・ヒョンイル)議員が韓国国防部(省に相当)から入手した「北朝鮮の汚物風船の構造図」によると、汚物風船の構造は、直径3-4メートルのゴム風船にごみや肥料などを詰めたビニール袋を結び付ける形になっている。
風船とビニール袋の間には乾電池で作動する発熱タイマーが付いている。ビニール袋には火薬の付いたテープが帯のように巻きつけられ、電線によって発熱タイマーと連結されている。発熱タイマーは風船が飛び始めてから一定の時間が経過すると電線に電気を流し、火花を散らす仕掛けになっている。その後、ビニール袋に巻きつけられた導爆線が爆発し、ビニール袋の下部が破れて中のごみがまき散らされる。蔡議員は「かつて運動会などで行われていたくす玉割りと同じ構造だとみられる」として「これまでは発熱タイマーとつながっている熱線がビニール袋を溶かしてごみをまき散らすと言われていたが、実際には火薬によってビニール袋が破れる構造になっている」と説明した。
ただし北朝鮮がどんな種類の火薬をどのようにしてテープのような状態に作り上げたのかは分かっていない。
導爆線の存在が確認されたことで、汚物風船が落下した場所の一部でなぜ火災が発生したのかという謎も解けた。韓国軍合同参謀本部の関係者は「タイマーに設定された時間よりも早く風船が落下すると、地上で火薬が爆発し、ごみ袋に火がつく可能性がある」と指摘した。
ゴム風船には水素ガスが詰められていることも分かった。韓国軍当局の関係者は「一般的には気球を飛ばす時は軽くて安全なヘリウムガスを使うが、水素の方が安価なため水素を使ったとみられる」と指摘した。水素の価格はヘリウムの10分の1ほどでかなり安いが、火がつけば爆発する性質があるため危険だという。水素は水を電気分解すれば作れるほか、原油を精製する過程でも得られる。ただしどちらの方法も電気を大量に使用する。北韓大学院大の梁茂進(ヤン・ムジン)総長は「重さ10キロ前後の汚物を韓国まで飛ばすためには相当な量の水素が必要だが、深刻な電力不足にあえぐ北朝鮮がその水素を調達するのは容易ではないだろう」との見方を示した。ゴム風船のゴムは天然ゴムを使用していることが確認された。
蔡議員が韓国行政安全部から入手した資料によると、北朝鮮は今年5月28日から先月22日までに22回にわたって汚物風船を計5530個飛ばしてきた。倉庫や工場に火がついたり、車の窓ガラスや建物の屋根が破損したりするなどの被害も78件起きた。仁川空港と金浦空港では航空機の離着陸中断が約20回あった。
韓国軍当局の関係者は「軍が拾い集めた汚物風船のほとんどに、タイマーと導爆線などの仕掛けが付いていたことを確認している」と話した。
韓国軍は、北朝鮮が住民を動員して汚物風船を作ったものとみている。韓国軍の関係者は「汚物風船を一つ作るのに10万ウォンほど掛かっていると推定される」と話した。これまでに5530個が飛来しているため、汚物風船に約5億5300万ウォン(約6100万円)を費やしていることになる。
北朝鮮は汚物風船を飛ばす理由について、「韓国による対北ビラ散布に対抗するため」と主張しているが、韓国軍の専門家らは「汚物風船はすぐにでも武器化する可能性がある」と指摘する。
ソウルなど韓国の陸地に落下する「命中率」も高まっている。韓国軍当局の関係者は「初めは西海(黄海)上に落下する風船も多かったが、回数を重ねるごとに韓国の陸地に落下する割合が高くなっている」と話した。
昨年6月に2回目に飛来した時は、汚物風船が韓国の領土に落ちた割合は約12.5%だったが、10回目となった7月にはその割合が96%に達したという分析もある。1カ月で命中率が8倍も高くなったわけだ。実際に、汚物風船が狙ったかのようにソウル・竜山の大統領室や国会図書館、国防部庁舎に落ちたケースもあった。世宗研究所韓半島戦略センターの鄭成長(チョン・ソンジャン)センター長は「数千個の汚物風船をまき散らす中で、風向きや風速、タイマー作動時間、風船に入れる水素ガスの量などについてのノウハウとデータが蓄積されているとみられる」とした上で「将来的には、目標物をかなり正確に攻撃できるようになるかもしれない」との見方を示した。これに対し、韓国軍関係者は「具体的な命中率の把握は難しいが、汚物風船の精度が上がってきているのは確かだ」と述べた。
一部の専門家は、北朝鮮が汚物風船にごみではなく生化学物質を詰めてソウルなどの都市に飛ばす可能性もあるとして懸念を示した。これまでに汚物風船から生化学物質が検出されたことはないが、コレラ菌や毒物などをまき散らして混乱を引き起こす可能性もあるということだ。
パク・チンソン記者
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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