▲イラスト=UTOIMAGE
ソウル市内の大学街にあるスポーツジムに通うキムさん(30)は最近、トイレのごみ箱に注射器が何本も捨ててあるのを見て非常に驚いた。キムさんは「ステロイドホルモンの使用がこんなにまん延しているとは思わなかった」と話した。9月23日に本紙の記者が訪れたソウル市瑞草区内のトイレには「注射器の使用が発覚した場合には退出していただきます」という警告文が貼られていた。インターネットのトレーニング愛好者用掲示板..
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▲イラスト=UTOIMAGE
ソウル市内の大学街にあるスポーツジムに通うキムさん(30)は最近、トイレのごみ箱に注射器が何本も捨ててあるのを見て非常に驚いた。キムさんは「ステロイドホルモンの使用がこんなにまん延しているとは思わなかった」と話した。9月23日に本紙の記者が訪れたソウル市瑞草区内のトイレには「注射器の使用が発覚した場合には退出していただきます」という警告文が貼られていた。インターネットのトレーニング愛好者用掲示板には、注射器が山のように積み上げられたトイレの写真がたびたび投稿される。仁川市内にあるスポーツジムの館長は今年8月「お願いですから注射器を便器に捨てないでください。修理費だけで50万ウォン(約5万4000円)掛かりました」と訴える貼り紙を掲示した。
韓国の20-30代の間で最近、ウエートトレーニングが人気を集め、違法薬物の誤用・乱用問題が深刻になっている。かつてボディービル業界でひそかに流通していたアナボリックステロイド(筋肉増強剤の一種)などが今では一般の人々にまで広がっているのだ。ソウル市城東区のスポーツトレーナー、チェさん(26)は「インスタでよく見掛けるマッチョなインフルエンサーのほとんどは違法薬物を使っている」と話した。筋肉の合成を促進するアナボリックステロイドや成長ホルモンを服用して筋肉を肥大させ、交感神経を興奮させるエフェドリンを使って体脂肪を急速に減らすのだ。一般的な運動と食事管理ではとても到達できないほど筋肉量が増加し、くっきりとした筋肉を手に入れることができる。
本紙記者が9月23日、ステロイド情報を共有する会員数約4000人のコミュニティーサイトに加入すると、6人の販売業者がテレグラムやカカオトーク(通信アプリ)のアカウントを知らせてきた。ある業者はテレグラムで「1日後には受け取れる」として製品リストと価格表を送ってきた。「ディボル(ディアナボール、ステロイド剤)10ミリグラム、100錠で6万5000ウォン(約7100円)」「アナバー(アナボリックステロイド)10ミリグラム、100錠で10万ウォン(約1万1000円)」といった具合だ。この業者は「経口用は一般の錠剤と同じように飲めばいい」と説明した。これらの業者は中国・東南アジア・インドなどから正体不明の薬物を輸入し、流通させているという。
スポーツトレーナーやボディービルダーの大多数は「この業界は薬物がなければ成り立たない」と話す。実際に韓国の全国体育大会(日本の旧国民体育大会に相当)のボディービルディング部門は二十数年にわたってドーピング問題に頭を悩ませている。今年10月の同大会では一般の部は廃止された。実はボディービル大会は薬物がなければ入賞が不可能なレベルだという。9月7日に京畿道金浦で開催された大会では、抜き打ちドーピング検査の対象となった入賞者が検査を拒否し、姿を消すという事態も起きた。
問題は、趣味でボディービルディングに取り組む一般人まで薬物を容易に手に入れられることだ。昨年7月、江原道原州市のスポーツトレーナーは、会員に違法なステロイド剤を勧めて5万ウォン(約5400円)相当の医薬品を販売した上、肩に注射器でステロイド剤を注入した疑いで罰金200万ウォン(約22万円)を言い渡された。野党「共に民主党」の閔馨培(ミン・ヒョンベ)議員室が文化体育観光部(省に相当)・韓国ドーピング防止委員会から入手した資料によると、最近10年間(2015-24.9)に大会禁止薬物を服用して摘発された件数は239件だった。このうち42件は10代の青少年で、5人に1人が10代だったことになる。中には9歳の子どもも含まれていた。
このような状況にもかかわらず、当局が事実上対応を放棄しているのでないかとの指摘も出ている。アナボリックステロイドなどを医師の処方なしに服用・注射するのは現行の医療法・薬事法に違反する行為だ。薬事法の改正によって22年7月以降はこれらの薬物を購入した人の処罰も可能になったが、現在までに食品医薬品安全処が購入者を処罰したケースはない。テレグラムなどで活発に営業している販売業者に対する取り締まり・処罰もほとんど行われていない。21年に2件、22年は0件、23年は2件、24年は8月現在で3件にとどまっている。
梨大ソウル病院の沈京原(シム・ギョンウォン)教授(家庭医学科)は「ステロイド剤は治療目的で使用しても基礎疾患、容量、投薬中断などの面で細心の注意が必要な薬物なのに、これを筋肉増量、体脂肪減少などの目的で使うのはとんでもないこと」だとして「短期的には大きな問題がなくても、使用し続ければひどい場合には急死する可能性もある」と指摘した。実際に30-40代の若いボディービルダーたちが細菌感染や心臓まひなどで死亡するケースが報告されている。
ソ・ボボム記者
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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