▲2017年に中国を訪問した文在寅大統領と金正淑夫人が北京市内のレストランで盧英敏(ノ・ヨンミン)駐中大使と朝食を共にしている/聯合ニュース
弾劾とは憲法の力で公職者を追放する恐ろしい制度だが、韓国では混濁の世でありふれた政争の小道具になってしまった。国会改選後の2カ月で共に民主党などが発議した弾劾案は7件に上る。放送通信委員長は任命前の段階でターゲットになり、就任翌日に弾劾案が発議された。どれだけ人物に過ちがあるとしても、たった一日で弾劾されるほど「重大な憲法・法律違反」を犯すことが物理的に可能なのかという抗弁が出るほどだった。
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▲2017年に中国を訪問した文在寅大統領と金正淑夫人が北京市内のレストランで盧英敏(ノ・ヨンミン)駐中大使と朝食を共にしている/聯合ニュース
弾劾とは憲法の力で公職者を追放する恐ろしい制度だが、韓国では混濁の世でありふれた政争の小道具になってしまった。国会改選後の2カ月で共に民主党などが発議した弾劾案は7件に上る。放送通信委員長は任命前の段階でターゲットになり、就任翌日に弾劾案が発議された。どれだけ人物に過ちがあるとしても、たった一日で弾劾されるほど「重大な憲法・法律違反」を犯すことが物理的に可能なのかという抗弁が出るほどだった。
民主党の李在明(イ・ジェミョン)元代表や同党を捜査した検事4人も弾劾リストに名を連ねた。ある検事は当事者も否認している被疑者との不適切な関係などが弾劾事由として指摘されたが、添付された証拠資料はマスコミ報道4件だけだった。他の検事については、飲酒して醜態をさらした疑惑などを問題視した。たとえ事実でも到底弾劾の対象にはならない理由だった。 既に嫌疑なしと結論が出た韓明淑(ハン・ミョンスク)事件の虚偽陳述疑惑、甚だしくは偽装転入まで弾劾事由に入った。 重大な事案に使われるべき弾劾の刀が、些末なことに使われる包丁同然の存在になってしまった。
民主党と祖国革新党は、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の弾劾作戦にも突入した。「残り任期3年は長い」とばかりに弾劾調査聴聞会を開き、情報提供センターまで開設した。民主党は弾劾聴聞会の根拠として国会請願を掲げた。尹大統領弾劾案の発議を求める請願に143万人余りが同意した以上、国会が回答しなければならないという論理だ。
4年前にも当時の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の弾劾を求める国民請願があった。これには147万人が同意し、民主党が盛り上げた尹大統領に対する弾劾請願より約4万人多かった。しかし、当時野党だった自由韓国党は請願を理由とする弾劾を考えなかった。盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領弾劾時に逆風にさらされたトラウマもあるだろうが、厳格であるべき弾劾をむやみに行おうという発想自体がなかったためだろう。
文大統領の任期中に弾劾請願は2回あった。147万人が同意した請願は、コロナ初期の2020年初め、文政権が中国人の入国を防がず、自国民の保護を怠ったという理由で発議されたものだった。その前年の2019年には北朝鮮の核を放置・黙認したことと国家情報院の対共捜査権剥奪を理由に挙げた弾劾請願に25万人が同意した。弾劾要件に該当するかどうかは別として、いずれも国民の怒りを買うに値する事案だった。
それは氷山の一角に過ぎない。文政権が犯した蔚山市長選介入は、憲法が定める弾劾の定義に合致する重大犯罪だ。文大統領の30年来の友人を当選させようと、青瓦台の8つの部署が総動員された容疑が明らかになった。青瓦台のブレーンたちは大統領が推す候補の公約を支援し、警察は虚偽の情報提供を根拠にライバル候補に対する捜索に踏み切った。民主主義システムを破壊する深刻な憲法蹂躙(じゅうりん)だったが、それでも当時の野党は弾劾というカードを切ることができなかった。
文政権は国家統計も操作した。マンション価格指数だけで94回も改ざんし、5年間にわたり雇用・所得・不動産統計を歪曲(わいきょく)した疑いが監査院の調べで明らかになった。指示に従わない統計庁長を追い出し、そのポストに自分の味方を据えた。そうやって修正した偽りの統計を根拠として、文大統領は「(所得主導成長の)肯定効果は90%だ」とか「不動産(政策)には自信がある」という虚言を並べた。
民主党と祖国党が主張する基準が適用されるならば、文大統領の弾劾事由を満ちあふれていた。韓国国民が殺害されるのを放置し、北朝鮮に渡ろうとしたと決めつけた西海公務員射殺事件、エネルギーを巡る百年の大計を一夜にして覆した脱原発政策の暴走、問題がない原発を止めた月城原発1号機の経済性評価改ざんなど枚挙にいとまがない。国家の根本を乱すあらゆる疑惑の頂点に文大統領がいることは、誰が見ても明白だった。むしろ朴槿恵(パク・クンへ)元大統領の弾劾事由が大したこともないように見えるという声も上がった。
民主党は尹大統領を弾劾すべき理由として、海兵隊員事件の捜査介入を挙げる。文政権は曺国(チョ・グク)元法務部長官をかばうため、検察捜査チームを空中分解し、検察総長の職務まで停止させた。捜査介入どころか、全く捜査ができないように阻止した。民主党は尹大統領夫人である金建希(キム・ゴンヒ)氏を巡る問題も弾劾に値すると言っている。文大統領夫人の金正淑氏は大統領専用機でタージマハルに行き、現地の大統領不在のチェコ、エジプトのピラミッドを訪問し、税金で観光に行ったと物議を醸した。青瓦台の特別活動費と疑われる札束で服やアクセサリーを購入した疑惑も浮上した。どちらが重大なのか。
民主党などは日本に対する低姿勢外交も問題視している。それが弾劾事由ならば、中国に終末高高度防衛ミサイル(THAAD)を巡る「3つのノー」をひそかに約束したり、北朝鮮の金与正(キム・ヨジョン)の一言でビラまきを禁止したりする対中・対北屈辱外交で一貫した文大統領は何度も弾劾されても足りないだろう。
民主党の基準に従えば、文政権の5年間には弾劾を政界で争点化する機会が数多かったが、当時野党は考えもしなかった。「朴槿恵弾劾」で血の味を占めた民主党の目には、野党は実にばか正直に見えたことだろう。
朴正薫(パク・チョンフン)論説室長
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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