▲グラフィック=パク・サンフン
人工知能(AI)を開発、提供する韓国のある大企業は、年初来5月までの期間にAI開発者の採用に向けた募集を5回実施した。月に1回のペースで採用したものの、10人を採用しても、3、4人は全く出勤しなかった。募集を繰り返しても再び欠員が生じた。1カ月もたたずに辞めるケースも相次いだ。人事担当役員は「最初は教授ポストや他の大企業に行くと思っていたが、その一部は米国のグーグルやアップルのようなビッグテック..
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▲グラフィック=パク・サンフン
人工知能(AI)を開発、提供する韓国のある大企業は、年初来5月までの期間にAI開発者の採用に向けた募集を5回実施した。月に1回のペースで採用したものの、10人を採用しても、3、4人は全く出勤しなかった。募集を繰り返しても再び欠員が生じた。1カ月もたたずに辞めるケースも相次いだ。人事担当役員は「最初は教授ポストや他の大企業に行くと思っていたが、その一部は米国のグーグルやアップルのようなビッグテックへと去った。最初から勝負にならない採用競争だった」と話した。
最近世界的にAI産業と関連半導体産業が爆発的に成長し、人材の確保戦争が起きている。米国のビックテックは名門大学の修士・博士課程を修了した新人の年収が40万ドル(約6320万円)から始まる。米国の大学でAI修士課程を履修しているKさん(29)は「同じ専攻の韓国人留学生のうち、卒業後韓国に帰る人は一人もいない」と話した。名門大学でなくても、海外大学のAI関連の修士課程修了者が韓国企業に要求する年収は約1億5000万ウォン(約1700万円)。大企業のある最高技術責任者(CTO)は「韓国企業が応じられる水準ではない。こんな状況で誰が国内に残りたいだろうか」と述べた。
韓国では人材の海外流出が深刻だ。AI人材の移動を追跡する米国シカゴ大ポールソン研究所によると、2022年には韓国で大学院課程を終えたAI人材の40%が海外に旅立った。半導体業界でも人材競争は厳しい。米国、日本、欧州などが生産拠点を増やし、AIブームでAI半導体開発競争も激化すると、元々不足していた半導体人材がさらに足りなくなった。本紙が半導体やAIを主力製品・サービスとしているサムスン電子、SKハイニックス、LG、KTなど大企業10社の技術・人事担当役員にアンケート実施した結果、理工系の修士・博士課程修了以上の「高級人材」を採用することが「難しい」または「非常に難しい」とした回答者は9社に達した。
韓国のある半導体企業は最近、海外有名大学出身のエンジニアを採用し、直前になって「入社しない」と通知された。国内外の複数社に願書を出し、米ビックテックに採用されたからだった。同社の人事担当役員は「慰留しようとビッグテックの年収と待遇を尋ねたが、到底合わせられない条件だった。最近国内外の大学を問わず理、理工系の修士・博士課程修了者でとりわけAIと半導体関連の専攻者は、韓国企業だけでなくビッグテックや海外のIT企業にも願書を出すのが基本なので、こんなことがよく起きる」と話した。
本紙のアンケートに応じた大企業の役員10人は、全員が希望人材の最終学歴として、理工系の修士・博士号保有者を挙げた。AI・半導体分野で一定水準の専門的知識や技術を持っている「高級人材」を必要としている格好だ。しかし、この分野では人材競争が世界的に拡大し、国内の大企業はリソースが豊富なビッグテックと対決する状況に追い込まれた。その上、韓国国内では医学部に優秀な頭脳を奪われ高級人材の「二重苦」に陥っている。
■ビッグテックを目指す高級人材
韓国の大企業に入社し、米国でコンピュータ工学修士課程を修了後、シリコンバレーのテクノロジー企業に就職したYさんは「ビッグテックは給与も高く、能力によって昇進する文化があり、韓国企業よりもキャリアに有利と感じた。韓国は小さな市場、雇用形態などシステムに差があり、同じ努力をして米国で得られる報奨レベルに合わせることは現実的に不可能だ」と話した。
韓国に戻ってくる理工系留学生を獲得しようと争ってきた韓国企業は、ビックテックが新たなライバルとなった。最近国内の名門大学の理工系修士・博士課程出身者までもがビッグテックに就職するケースが増え、競争の度合いと環境も変わった。本紙のアンケートに応じたある企業役員は「コロナ前までは韓国国内の修士・博士課程出身者は大半が韓国企業に就職するという前提があった。しかし、米国だけでAI・半導体人材を確保することに限界を感じたビッグテックが海外人材に目を向けた。問題はビッグテックは年収に上限を設けないも同然で、労働市場も柔軟なので、韓国企業が採用競争でいつも負けるしかない」と話した。
韓国科学技術院(KAIST)の半導体研究室では最近、研究生10人のうち6人が海外就職をしている。この研究室を率いる教授は「先月もアップルにインターンに出かけた修士課程の学生が就職勧誘を受けた。最近の理工系学生たちは英語での意思疎通に困難がなく、米国の就労ビザ取得も以前より容易になり、ビッグテックに就職する上での障壁がほとんどなくなった」と話した。実際米国務省が科学・芸術・スポーツ分野の特技を持つ者に発給する「O-1ビザ」の取得者のうち、韓国国籍者は10年間で2倍に増えた。芸術・スポーツ分野で米国に就職する人が大幅に増えることは考えにくい点を考慮すると、O-1ビザを取得した韓国国籍者の大半は理工系分野の高級人材ということになる。
■医学部偏重でAI・半導体敬遠
本紙によるアンケートの回答者は高級人材の採用が難しい理由として、「理工系学生のプールが小さい」ことを最も挙げた。この問題を指摘したある役員はインタビューに対し、「学生数が絶対的に少ないというのではなく、優秀な人材が以前よりも理工系に進学せず、修士・博士課程まで残る学生が減った」と説明した。回答者10人全員が「医学部への偏重が人材不足に影響を及ぼすと思うか」という質問に「とてもそう思う」または「そう思う」と答えた。半導体企業の役員は「韓国の半導体産業が盛んに発展した80~90年代には理工系の成績上位の学生が電気、電子、物理、化学など工学部や基礎科学分野に目指したのに対し、アジア通貨危機以降は医学部を目指すようになり、理工系の人材資源自体が減った」と指摘した。
卞熙媛(ピョン・ヒウォン)記者、オ・ロラ記者
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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