▲『セウォル号3488日の記録』/法律新聞提供
【新刊】金錫均(キム・ソクキュン)著『セウォル号3488日の記録』(法律新聞社刊)
著者は、『セウォル号3488日の記録』を「海の懲毖録(ちょうひろく)」と命名した。韓国では、懲毖録といえば、壬辰(じんしん)倭乱(文禄・慶長の役)について振り返った柳成竜(ユ・ソンリョン)の『懲毖録』を指す。本書を著した金錫均・元海洋警察庁長(海警庁長)は序文で「誤った部分は反省し、二度と悲劇が起きないように警戒す..
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▲『セウォル号3488日の記録』/法律新聞提供
【新刊】金錫均(キム・ソクキュン)著『セウォル号3488日の記録』(法律新聞社刊)
著者は、『セウォル号3488日の記録』を「海の懲毖録(ちょうひろく)」と命名した。韓国では、懲毖録といえば、壬辰(じんしん)倭乱(文禄・慶長の役)について振り返った柳成竜(ユ・ソンリョン)の『懲毖録』を指す。本書を著した金錫均・元海洋警察庁長(海警庁長)は序文で「誤った部分は反省し、二度と悲劇が起きないように警戒するという観点」だとしつつ、著書をこのように紹介した。「懲毖」とは、過去にあった誤りや不正を警戒し、謹むという意味だ。二度と起きてはならないセウォル号惨事は、当時の責任当事者だけでなく、全ての韓国国民にトラウマとして残った。だが韓国社会に依然として残る問題は、事故それ自体よりも、惨事に直面して二つに分裂した韓国政界、非科学的かつ非合理的な事故後対応などにある。
304人の大切な命を奪っていったセウォル号惨事が発生してから10年経過したが、あの日の真実は依然として未決状態だ。これ以上起きてはならない悲劇の前で、遺族だけでなく、当時の当局責任者らもまた苦痛に見舞われている。懲毖録と命名したところには、つらい歴史に対する骨身に染みる反省とざんげも込められているようだ。
セウォル号惨事10周年の4月16日に先立つ今年2月、事故当時の救助の責任者だった金・元海警庁長が、「救助の失敗者」という烙印(らくいん)の中で過去数年間の海警の救助過程とその後に起きたことについて記録した『セウォル号3488日の記録-海の懲毖録』を出版した。
惨事から10年たったが、司法処理はまだ完結しておらず、当時の責任者らに対する世間の視線は依然として冷たい。「海警の救助失敗」に関連して金錫均・元海警庁長など海警幹部10人が、救助義務を尽くさず乗客304人を死亡させた容疑などで起訴されたが、大法院(最高裁に相当)で無罪が確定した。裁判部は、保護措置における不十分な点は海警レベルの問題であって、被告らに刑事責任を問うほどの業務上過失致死を認めるのは困難、と判断した。
金・元庁長は、付録を除く249ページにわたって、セウォル号惨事当日、海警解体、捜索終了、再捜査、裁判などについて詳細に記録した。著者は本書で、事故の原因に関連して海警のいささか不十分な初動措置を一部認めた。それでも、検察の捜査と専門機関の調査、特別調査委員会、船体調査委員会の調査、判決文などを引用して、到底海には浮かべられない不良船が運航していたこと、過積載のためのバラスト水排出、貨物の固縛不良、未熟な運航、急速な転覆、船長と船員の無責任な脱出などを問題として挙げた。
本書では、当時メディアやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS、交流サイト)を通して無分別に伝えられた各種のうわさや怪談について、事実であるかどうかも細かく説明している。「サルベージ業者アンディン(Undine)を投入するために海軍の潜水を妨げた」「人身御供(ひとみごくう)説、潜水艦衝突説」などといったデマだ。金・元庁長は「誤った主張がなされて歪曲(わいきょく)された情報が流れていても、当時の雰囲気で海警や専門家らは一言も言えない状況だった」と回顧した。
金・元庁長が言いたかったことは著書の最終章に収められた。金・元庁長は、韓国社会にまん延する、事故が政治的に解釈されて変質する「政治化現象」と、事実が否定される現実を批判している。これが、韓国人の直面する混乱と痛みだという。著者は「事故原因やその後の対処過程が一点の疑惑もなく究明されねばならないということには共感する」と語った。その上で「『司法主義万能論』式の事故対応や、世論をなだめるために『違うのなら別にいい』式で証拠も不十分なまま取りあえず起訴するという行いは、社会がより良い方向へ進んでいくこととは別個の問題と言える」と指摘した。時には政争よりも、科学的で客観的な事実に注目した因果関係で事案を見つめて初めて、解決が出てくることもあり得る-という説明だ。金・元庁長が著書に記した内容は、責任者の過失を覆い隠そうとする一種の弁明であり釈明だと映るかもしれない。金氏は著書の付録に、数十ページも割いて「弁護人意見書」を収録した。
本書に対する評価は割れるかもしれない。本書が柳成竜の『懲毖録』のような存在なのか、それとも当時の事態に対する弁明書なのかを巡っては、世論の意見がはっきりと分かれるだろう。それでも意味があるのは、本書は海警の過失の弁明や、「やるべきことは尽くした」というような主張のみを掲げるものではない、というところにある。著者は、数百人の貴重な生命が失われるのを防げなかったことを謝罪した。金・元庁長は「海の安全の責任を負っていた人間として、惨憺(さんたん)たる事故を防げなかったことについておわびする」「あらためて遺族に心から慰労を申し上げる」と記した。308ページ、1万9000ウォン(約2100円)
チャン・ユンソ記者
チョソン・ドットコム/朝鮮日報日本語版
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