▲昨年4月に完工した平壌・和盛地区の第1段階マンション団地。/労働新聞・ニュース1
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)が政権獲得後、初めて経済の失敗を認めたのは、新型コロナがまん延していた2020年8月の労働党中央委全員会議でのことだった。経済の諸目標が「ひどく未達であった」と語った。専門家らは耳を疑った。北朝鮮において、首領は「無誤謬(ごびゅう)の化身」だ。誤り、失敗を絶対に認めない。外部環境や幹部らのせいだという、いわゆる「幽体離脱話法」を使うとしても、天に唾してわが身に降..
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▲昨年4月に完工した平壌・和盛地区の第1段階マンション団地。/労働新聞・ニュース1
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)が政権獲得後、初めて経済の失敗を認めたのは、新型コロナがまん延していた2020年8月の労働党中央委全員会議でのことだった。経済の諸目標が「ひどく未達であった」と語った。専門家らは耳を疑った。北朝鮮において、首領は「無誤謬(ごびゅう)の化身」だ。誤り、失敗を絶対に認めない。外部環境や幹部らのせいだという、いわゆる「幽体離脱話法」を使うとしても、天に唾してわが身に降りかかることになる。問題ないふりをするにはあまりにも状況が良くなかった。「勝利者の祝典」であるべき党大会は目前だった。餌をまいて下準備をしておかねばならなかった。
全員会議の2カ月前、前兆があった。金正恩が主催する政治局会議の案件が「平壌市民生活保障のための当面の問題」だった。核心階層が集住する「革命の首都」で食糧・電気・生活必需品の供給に深刻な支障が生じたという意味だ。これを公開したことも異例だった。翌21年1月の第8回党大会で金正恩は「あらゆる部門で甚だしく未達であった」という表現を使った。動揺するエリート層と険悪になる民心を鎮めようと思ったら、これはやむを得なかった。豊かな町といわれる開城でも餓死者が続出した。会議のたびに経済難を認め、幹部らを叱責(しっせき)するのが日常になった。
最近、妙香山で政治局会議を招集した金正恩が「地方人民らに初歩的生活必需品すら提供できないのは深刻な政治的問題」だとし、幹部らに向けて「言い繕っている」「決断と勇気がない」と叱咤(しった)したのも、その延長線上に位置する。1泊2日の日程中、金正恩が最も多く口にした言葉は「地方」だった。初日に22回、2日目には37回だった。「地方の世紀的落後性」うんぬんと言って、都市と農村の格差解消を強調した。「地方」をちりばめた演説文の行間には「もう平壌は暮らしていけるので、地方さえ生き残ればよし」という内部宣伝の意図が明瞭にうかがえる。
金正恩が当てにしているのは「平壌5万世帯住宅建設」事業だ。3年前の党大会で約束した。経済が奈落に落ち、白紙化も同然となった「5カ年計画」において、ほぼ唯一生き残った。青年突撃隊や軍人らを総動員し、22年に松花地区1万世帯、23年に和盛地区1万世帯が完工した。また、24年4月の入居開始を目標に、和盛地区でさらに1万世帯を作っている。核武力の高度化に次ぐ金正恩の治績として宣伝している。地方に向けられるべき人員と資源を、全て持ってきて使った。平壌の民心をつかむためのあがきだ。
だが、当の住民らは冷笑的だ。「平壌ニュータウン」は、見た目だけは超高層、超現代的だ。ところが、制限送電でエレベーターは飾り物と化して70-80階を歩いて行き来し、暖房・温水の供給もめちゃくちゃなので服を何枚も重ね着する。住居環境がましな「ロイヤル棟」「ロイヤル階」は政権の実力者らに裏金を渡した人々が占めている。「除隊軍人、科学者、教授などに優先配分する」という原則はとうに崩れた。「誰にどれだけ握らせるかによって和盛地区の入舎証(居住許可証)が出る」という必勝公式が出回っている。党序列トップ10前後の軍需・経済担当政治局委員2-3人が最も確実だという。李善権(リ・ソングォン)、玄松月(ヒョン・ソンウォル)も手腕が良い方に属する。住民らは「ああして裏金を受け取っても平然としているのを見ると、いかにも実力者」とひそひそうわさをしている。住民らの目に映る和盛地区は金正恩の治績ではなく、伏魔殿だ。
300万平壌住民の大多数は、金正恩政権を支える党・政・軍のエリートとその家族だ。ニュータウンに失望したからといって、背を向けはしない。金氏王朝と彼らを3代目の運命共同体として結び付けているものの核心は「配給」だ。平壌で配給制が動いている限り、金氏政権は維持される。このところ平壌では、国営商店・市場に行っても生活必需品を買い求めるのが難しい。電気はしばしば途絶え、油の供給もぎりぎりだ。食料供給だけが辛うじて続いている。これさえも「全ての穀物を平壌に優先供給せよ」という金正恩の特別方針のおかげだ。コロナ封鎖当時よりましになったものはない。全ては金正恩の核への執着のせいだということを、住民らも知っている。そんな金正恩の後ろで虎の威を借る側近たちは、自分たちだけのうたげを開いている。平壌の春はまだ訪れない。
李竜洙(イ・ヨンス)論説委員
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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