韓国では動画投稿サイト「ユーチューブ」を巡り、名誉毀損の恐れがある動画を放置するなどコンテンツ配信基準が恣意(しい)的で独占的地位を乱用しているという批判が根強い。昨年12月には「尹錫悦(ユン・ソンニョル)、イム·ヨンウンの結婚式で祝いの歌」「サムスン李在鎔(イ・ジェヨン)再婚」などでたらめな動画で再生数を稼ぐチャンネルが登場した。これに対し、放送通信審議委員会が削除やアクセス遮断を求めたが、ユ..
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韓国では動画投稿サイト「ユーチューブ」を巡り、名誉毀損の恐れがある動画を放置するなどコンテンツ配信基準が恣意(しい)的で独占的地位を乱用しているという批判が根強い。昨年12月には「尹錫悦(ユン・ソンニョル)、イム·ヨンウンの結婚式で祝いの歌」「サムスン李在鎔(イ・ジェヨン)再婚」などでたらめな動画で再生数を稼ぐチャンネルが登場した。これに対し、放送通信審議委員会が削除やアクセス遮断を求めたが、ユーチューブは「本社の方針に違反したコンテンツは見つからなかった」として放置した。結局、放送通信審議委は会議を開き、韓国国内からの接続のみを遮断するようインターネットサービス提供事業者に「是正要求」する手続きを踏んだ。 放送通信審議委によるユーチューブへの是正要求件数は最近5年間で1万382件に上り、毎年急増している。
ユーチューブは「スパムや詐欺行為」「性行為と過度な露出」「児童の安全」などの自主的なガイドラインに基づき、コンテンツを削除すると表明しているが、実際に適用している具体的な詳細基準は外部に公表していない。放送通信審議委の幹部でさえ「どういうチャンネルを残し、どういうコンテンツは削除するのかユーチューブの基準が私たちも知りたいぐらいだ」と話した。ユーチューブ上で名誉毀損などさまざまな紛争が起きても、韓国国内では加害者の特定も容易ではない。ユーチューブのサーバーが海外にあるため、捜索で加害者の身元を確認するのは困難だ。6人組ガールズグループ「IVE」のメンバー、チャン・ウォニョンさんは昨年5月、米国の裁判所に自身の名誉を傷つけたユーチューブチャンネルに関する身元情報の公開を求めて提訴。チャンネルの運営者を確認し、法的対応を取ることができた。そうした対応は、有名芸能人でなければ考えられない。
ユーチューブの脱法行為に韓国政府はお手上げだという指摘も出ている。韓国企業であるカカオやネイバーは放送通信委員会、公正取引委員会などの規制を受けており、国政監査の際に代表が証人席に立ち、世論の批判を受けたりもする。ユーチューブはそうした公式・非公式の規制に縛られない無風地帯に等しい。一方、グーグルは米韓の政府間通商交渉などで自社の利害関係を貫徹することで知られている。
韓国言論振興財団の「デジタルニュースレポート2023」によると、韓国人の53%がユーチューブでニュースを見たと答えた。同時に調査を実施した米国など46カ国の平均(30%)と比べ2倍に近い。報道機関のファクトに基づく記事よりも偏向し、極端な主張が相次ぐユーチューブが特に韓国では有力な存在になっているのだ。
こうした状況で韓国の政治家はそれを阻止するどころか、ユーチューブを総選挙に有利な方向に利用することに血眼になっている。ユーチューブの弊害を正すためには関連法令による裏付けが必要だが、政界は手をこまねいているばかりか、ユーチューブに便乗しようとしている。
与党・国民の力の内部ではいくつかのユーチューブチャンネルが「尹心(ユンシム)ユーチューブ」と呼ばれる。尹錫悦大統領を含む与党幹部が頻繁に見ているとされる。あるチャンネルは昨年以降、「韓東勲(ハン・ドンフン)法務部長官が(与党の)非常対策委員長になるべきだ」と主張したが、実際に韓氏が非常対策委員長に指名されたことで、「尹心ユーチューブ」のタイトルを獲得した。そうしたチャンネルに出演した人々が与党に迎えられ、その力はさらに強まった。共に民主党も状況は同じだ。李在明(イ・ジェミョン)代表を熱狂的に支持するユーチューブチャンネルほど出演競争が激しい。登録者が147万人いる金於俊(キム・オジュン)氏のチャンネルのレギュラー出演者は「総選挙出馬コースに乗った」とまで言われている。総選挙の公認で有利な立場に立ったということだ。
ユーチューブでは根拠のない疑惑や暴言があふれている。共に民主党の李在明代表が襲撃された際、保守系ユーチューブチャンネルは「凶器ではなく箸で刺されたのではないか」という自作自演疑惑を主張した。国民の力の裵賢鎮(ペ・ヒョンジン)議員が襲撃された事件でも同じだった。それでも有力政治家はユーチューブ視聴を自粛させようとするどころかあおっている。李海瓚(イ・ヘチャン)元民主党代表は昨年6月、党員講演で「既存メディアはごみ置き場」だとし、「ユーチューブを見ろ」と発言した。シンクタンク「ザ・モア」のユン・テゴン政治分析室長は「総選挙が目前なので、今はどちらも自制しないだろう。選挙後であっても政界からユーチューブの活用とその弊害について真剣に議論し、改善策を探るべきだ」と述べた。
申東昕(シン・ドンフン)記者、朴相璣(パク・サンギ)記者、金承材(キム・スンジェ)記者
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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