▲イラスト=ユン・ヒョンホ
「こちこちに凍った豆満江の氷上に一人の女性の死体が置かれていました。でも中国も北朝鮮もそれを片付けないんですよ。多分2週間以上氷の上にいたと思います」
数カ月前に会った脱北者Aさんは、約10年前の光景を思い出して身震いした。北朝鮮・中国国境の豆満江は水深が浅く川幅が狭い上、冬には凍結することもあり、脱北の主要ルートだった。銃を持った警備兵が守っているが、自由への意志をくじくことはできないようだ..
続き読む
▲イラスト=ユン・ヒョンホ
「こちこちに凍った豆満江の氷上に一人の女性の死体が置かれていました。でも中国も北朝鮮もそれを片付けないんですよ。多分2週間以上氷の上にいたと思います」
数カ月前に会った脱北者Aさんは、約10年前の光景を思い出して身震いした。北朝鮮・中国国境の豆満江は水深が浅く川幅が狭い上、冬には凍結することもあり、脱北の主要ルートだった。銃を持った警備兵が守っているが、自由への意志をくじくことはできないようだ。Aさんも豆満江を渡って脱北した人物だ。しかし、彼が目撃した女性は彼ほど運が良くなかった。どういうわけか彼女は途中で倒れ、そのまま凍死してしまったのだ。
しかし、彼女が豆満江を渡ることに成功したとしても、望んだような自由を得ることは難しかったかもしれない。中国に渡った脱北者の前には多くの危険が潜んでいるが、最も恐ろしいのは脱北ルートに潜んでいる中国の公安だ。脱北者を難民ではなく不法移民と規定した公安は、脱北民を逮捕すると強制送還してしまうという。そうして北朝鮮に連行された脱北者を待っているのは刑務所や政治犯収容所への収監、即決処刑などだから、北朝鮮住民にとって脱北は命懸けの博打だ。
現在中国には脱北者2000人余りが拘束されているというが、先日杭州で開かれたアジア大会が終わるや否や600人を突然北朝鮮に強制送還したという。こうした状況下で、韓国国会が11月30日の本会議で「中国は脱北者の強制送還を中止せよ」という決議案を採択したことは、人道主義的な観点から大きな意味がある。議員260人のうち253人が賛成したので、いつも対立していた与野党の声が久々に一つになった。
問題は至極当然に思える決議案に賛成票を投じなかった議員が7人もいるということだ。このうち民主党の白恵蓮(ペク・ヘリョン)議員は電子投票機のエラーで棄権扱いになったとし、「訂正できず申し訳ない」と謝罪したが、残る6人はこれまで何の釈明もしていないため、自身の考えに基づき投票をしたとみられる。偽装離党で知られる閔炯培(ミン・ヒョンベ)議員をはじめ、金禎鎬(キム・ジョンホ)議員、辛正勲(シン・ジョンフン)議員が民主党所属で、それ以外に正義党の姜恩美(カン・ウンミ)議員と進歩党の姜聖熙(カン・ソンヒ)議員も棄権し、強制送還に賛成する意思を表わした。とりわけ注目すべき人物は尹美香(ユン・ミヒャン)議員だ。
慰安婦被害者を利用して貯めた資金を横領して有罪判決を受けたことはそういうこともあり得よう。苦しい生活で娘を米国に留学させなければならず、カルビを食べて足マッサージまで受けようとすれば、横領の誘惑を感じることもあるだろう。しかし、脱北者の強制送還糾弾に棄権票を投じたのはあんまりだ。100年前に慰安婦被害者が経験した苦痛に共感するという人間が、脱北者が直面した悲惨な現実に背を向けるというのは、いったいどう説明すればよいのか。
ここに利害のきっかけを提供したのが、まさに林秀卿(イム·スギョン)元民主党議員だ。林氏は大学生だった1989年、当局の許可も受けずに北朝鮮に行き、45日間滞在したおかげで「統一の花」と呼ばれ、結局比例代表で国会議員にまでなったが、彼女は記念写真を撮ろうとした脱北者B氏に次のような暴言を吐く。「礼儀知らずの脱北者が転がり込んできて、大韓民国の国会議員に抵抗するのか。あなたはあの(与党議員の)河泰慶(ハ・テギョン)と北朝鮮の人権がどうだというおかしなことをしているわね。大韓民国に来たら黙って静かに暮らせ。この変節者め。身辺に注意しなさい」
つまり、林秀卿氏にとって脱北民とは、そして北朝鮮の人権問題を主張する河泰慶は首領を裏切った変節者ということになる。尹美香議員が林秀卿氏と同じ世界観を持っているなら、脱北者強制送還糾弾に賛成しなかったことも当然に思える。
実際、尹美香議員は脱北者に関連して噂になったことがある。016年に中国の北朝鮮レストラン、柳京食堂というところで働いていた支配人ホ・ガンイル氏が一緒に働いていた女性従業員12人と共に脱北したが、ホ・ガンイル氏は2018年、尹美香議員など韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)関係者が自分たちを京畿道安城市にある慰安婦被害者の保養施設に招待した際、「北朝鮮に帰るよう勧めた」と証言した経緯がある。尹美香議員は事実に反すると言ったが、彼女の潔白を信じるにはこれまで見せた言動に不審な点があまりにも多い。
-普段から尹美香議員は終末高高度防衛ミサイル(THAAD)配備に反対し、韓米合同演習反対を叫び、在韓米軍撤退につながる終戦宣言に賛成してきた。
-尹美香議員の夫である金三石(キム・サムソク)氏と義姉の金銀周(キム・ウンジュ)氏は、韓統連という反国家団体と接触し、資金を受け取り懲役刑を言い渡された。いわゆる兄妹スパイ団事件だ。尹美香議員は再審で無罪になったのだから、事件はでっち上げだったと言い張っているが、これは国家安全企画部が令状なしで拘禁し自白を強要したためであって、韓統連と接触し金品を受け取った点についてはやはり有罪となった。
-尹美香議員はスパイを補佐官に選んだ。補佐官(公認秘書)B氏はベトナムで北朝鮮関係者と接触し、北朝鮮に乱数表(暗号文)を報告するなどスパイ活動を行い摘発されたが、B氏は親北朝鮮メディア「統一ニュース」で記者として活動し、尹美香議員と「金福童(キム・ボクトン)の希望」をはじめとする多くの市民団体で一緒に活動したことがあるので、尹美香議員もB氏が親北朝鮮的人物であることを知っていた確率が高い。それでも尹美香議員はBを補佐官として採用した。B氏が国会から持ち出した国家機密がどれほどあるのか気になるが、尹美香議員はそれに対する答弁を一切拒否した。
-在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)は北朝鮮を支持・称賛し、反国家団体という判決を受けている。ところが尹美香議員は今年9月1日、朝鮮総連が主催した関東大震災100周年の行事に参加した。会場では韓国を「南朝鮮傀儡(かいらい)徒党」と呼ぶなど反国家団体らしい発言が飛び出したが、尹美香議員は一言も抗議しなかったという。問題になると、「日本のどこにでも朝鮮総連はある。献花だけしてきた」と弁明した。
尹美香議員の足跡を見ていると、こんな人物が民主党のおかげで比例代表議員になり、多くの悪行にもかかわらず、4年の任期をほぼ終えたことに腹が立つ。彼女に勧める。そんなに北朝鮮が好きならば、ここでこうしていないで北朝鮮に行ってください。あっちは涼しいから、汗をかくこともないだろうからと。
ソ・ミン檀国大寄生虫学科教授
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
Copyright (c) Chosunonline.com