▲写真=NEWSIS
福島の汚染水で韓国は国中が騒然としている。国際原子力機関(IAEA)の試験の結果を自分の立場に引き付けて解釈し、真実かどうかを判断するというところにまで至った。事故直後に、放射能の濃度が高い汚染水が放流されたにもかかわらず、2010年以前と2011年以降の韓国の海岸における放射能の数値に差はない-という韓国原子力安全技術院の報告がある。韓国海洋科学技術院の発表を根拠として見ると、福島の汚染水放流..
続き読む
▲写真=NEWSIS
福島の汚染水で韓国は国中が騒然としている。国際原子力機関(IAEA)の試験の結果を自分の立場に引き付けて解釈し、真実かどうかを判断するというところにまで至った。事故直後に、放射能の濃度が高い汚染水が放流されたにもかかわらず、2010年以前と2011年以降の韓国の海岸における放射能の数値に差はない-という韓国原子力安全技術院の報告がある。韓国海洋科学技術院の発表を根拠として見ると、福島の汚染水放流後、その海水が数年後に韓国の海域へ入ってくる時点でも放流当時の6億分の1程度の放射能が混じっている。放射線の影響の程度を表す単位はミリシーベルトだが、韓国近海の海水を飲料水として1兆年にわたって飲んでようやく、胸部X線を1回撮る際の放射線量に当たる0.2-0.5ミリシーベルト程度を受ける。放射線技師の1年間の許容放射線量は50ミリシーベルトなので、ほとんど影響はないと見て差し支えない。自然界には、われわれが避けようとしても避けられない空気や地面から出る放射線や、食べ物や空気を通して受ける放射線が存在しており、人間は年間2.4ミリシーベルトの自然放射線を受けながら暮らしている。この内容は科学的事実だ。それにもかかわらず、なぜ韓国の多くの政治家や科学者らは、福島の汚染水に関連して不安を醸成するのだろうか?
不安とは「理由もなく漠然と現れる不快な情緒的状態」だ。不安は対象のない漠然とした状態だが、恐怖は、それを引き起こす特定の状況や事物が存在する。こうした側面から、韓国で現在現れている国民感情は不安というよりむしろ恐怖に近い。現在、不安を助長しているのは恐怖マーケティングだ。
恐怖を感じると、人間は二つの反応のうちの一つを示す。急性ストレス反応の一種で、その対象と戦うか、逃げるか、どちらかをやることになる。これがまさに、米国の生理学者ウォルター・キャノンが初めて言及した闘争・逃走反応(fight or flight)だ。この反応でストレスホルモンが分泌され、脈拍や血圧が上がり、呼吸も早くなる。すなわち、交感神経が極端に活性化した状態で、慢性疲労、うつ、免疫力低下、そして頭痛、息切れ、消化不良など、各種の身体症状が現れることもあり得る。こうした状態が続くと、体と心が大きな傷を負うこともあり得る。
認知的観点から見ると、不安や恐怖は人間の理性的判断に影響を与える。恐怖を感じさせる中心的な脳の部位は扁桃体(amygdala)で、この扁桃体が過度に活性化すると、未来に生じることについての予測を否定的に行う傾向が強まる。不安や恐怖に見舞われる状況では、合理的な判断や予測より、否定的な結果が生じるだろうという判断を多く行うようになる。現在の福島の原発汚染水放出に対する過度の不安や恐怖心の助長は、実際に現れ得る未来の結果よりも否定的な予測をするように人々を仕向ける。韓国国民の相当数が汚染水放出に反対だと主張する一部の政治家らの行為は、意図的に不安と恐怖を助長するものだ。個人が合理的判断をしても、相当数の国民が反対しているので、自身の決定に問題があるかのように不安を感じさせる狙いがある。放射能が体にとって害になるか、そうでないかを決定するのは、「放射能があるか、ないか」ではなく、「どの程度あるか」なのだ。放射能が少しでもあると全て害になるわけではなく、その程度によって異なる-という事実を無視し、単純に放射能の有無によって害悪が決定されるかのように訴えている。皆、韓国国民の不安を食い物にする人々だからだ。
今回の福島汚染水問題は、科学的内容を政治化したことが問題でもあるが、これを国民にきちんと説得できなかったせいでもある。いくら科学的に正しい事実であっても、国民感情を理解して説得することが必要だ。だから、韓国には「憲法」の上に「国民情緒法」がある、という笑い話があるのではないか? 今からでも、落ち着いてこの問題を見つめ、韓国全体が不安と恐怖の津波に飲み込まれるより、国や国民のためどのように行動するのがよいかじっくり考えてみる時間を持てばと思う。韓国人は既に、国民の不安を助長することで利益を得る人々の例を、狂牛病(牛海綿状脳症/BSE)問題で経験したではないか。
権俊寿(クォン・ジュンス)ソウル大学病院精神健康医学科教授
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
Copyright (c) Chosunonline.com