ニーチェは、当代の人々に理解されないまま寂しく世を去った。フロイトは長生きして名声を享受したが、全てを性欲で説明しようとしているという非難から逃れられなかった。だがこんにちわれわれは、彼らが提示した内面の動力学を自然なものとして受け入れている。悪い考えや否定的感情、つらく苦しい記憶を原動力として、明るく健康で未来志向的な何かに変える精神的昇華の概念を、今のわれわれは常識と見なしている。人間はそう..
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ニーチェは、当代の人々に理解されないまま寂しく世を去った。フロイトは長生きして名声を享受したが、全てを性欲で説明しようとしているという非難から逃れられなかった。だがこんにちわれわれは、彼らが提示した内面の動力学を自然なものとして受け入れている。悪い考えや否定的感情、つらく苦しい記憶を原動力として、明るく健康で未来志向的な何かに変える精神的昇華の概念を、今のわれわれは常識と見なしている。人間はそうして自己を実現していくのだ。
否定を昇華させて肯定に至る道。これは韓国が経験してきた歴史的軌跡でもある。漢江の奇跡は、植民支配者だった日本に対する怨恨、北朝鮮と金日成(キム・イルソン)に対する憤怒、また戦争が起きるかもしれないという恐怖といった否定的感情が肯定的に昇華した結果物なのだ。
韓国だけでなく、ほとんど全ての開発途上国は、先進国を追って「ファストフォロワー」の道を歩もうとした。だが、韓国のように成功した国はない。「日本にはじゃんけんでも負けられない」という気持ちで歯を食いしばり、食い付いていったからだ。かつらを作っていたのが戦闘機を作るようになった植民地上がりの国は韓国だけだ。北朝鮮の侵略に備えようと軽工業から重工業へ産業構造の改編を断行し、成功したからだ。反日と反共は、単純な善悪の構図で語るべきことではない。韓国が生まれて成長してきた精神の歴史そのものだ。
20世紀の反共主義は、時として罪なき人々に苦痛をもたらした。21世紀の今は、むしろ反日主義が悪用されている様子が目に留まる。国際秩序が揺らぎ、新たな冷戦の黒雲が押し寄せている今、韓国には他の選択肢がない。古い親日フレームは昇華ではなく退化へと至るだけだ。民主党と李在明(イ・ジェミョン)代表は無責任な反日扇動をやめて、痛ましい過去の肯定的昇華のために力添えをすべきだ。
『SLAM DUNK』に戻ろう。ソン・テソプが持っている否定的感情は、悲しみだけではない。背が低いテソプは、劣等感といら立ちを感じていた。そんな心理的弱点をつかんだ相手チーム、山王は、テソプを集中マークする。「ゾーンプレス」で押していき、挫折させる戦略だ。どうやって克服すべきだろうか? 背が低いという短所ではなく、代わりに素早いという長所に集中することで、仲間たちにパスを出して味方がもっと点を取れるようにサポートするのだ。「抜け、ソン・テソプ!」 チームマネージャーのハンナ(彩子)の応援で力を得たテソプは、短所を長所に昇華させることに成功し、その活躍に力を得てプクサンは勝機を取り戻す。
一部では、『SLAM DUNK』のヒットをあざける。「ノー・ジャパン」と言っていてどうして日本のアニメーションに熱狂するのか、というわけだ。もちろん、一部の人々は恥じ入って当然だ。だが日本の漫画を見て育った私たち韓国人が、日本にドラマや音楽を輸出する国で生きていることもまた事実だ。韓国は既に否定を肯定に昇華させたのだ。後は、あしき扇動にふける退行的政治さえ克服すればよい。
ノ・ジョンテ経済社会研究院専門委員(哲学)
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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