コラムの締め切りが偶然にもクリスマスと重なった。残念だとは考えていない。街の通りは最初から寂しい状態が続いている。韓国政府は先日、コロナ・ワクチンを一定量確保したと発表した。いくつかの国ではすでにワクチン接種も始まっているが、韓国ではやっと契約した段階だ。首相はすでにワクチン接種を開始した国々について「あまりにも切迫しているから」と述べた。切迫という言葉を口にする前に「閉店のお知らせ」という言葉..
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コラムの締め切りが偶然にもクリスマスと重なった。残念だとは考えていない。街の通りは最初から寂しい状態が続いている。韓国政府は先日、コロナ・ワクチンを一定量確保したと発表した。いくつかの国ではすでにワクチン接種も始まっているが、韓国ではやっと契約した段階だ。首相はすでにワクチン接種を開始した国々について「あまりにも切迫しているから」と述べた。切迫という言葉を口にする前に「閉店のお知らせ」という言葉でも検索してみてはどうか。数多くの自営業者が絶望の中でこの1年を終わろうとしているのだ。
コロナ危機が大きく話題になるたびに、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の口から「K防疫」という言葉が出てきた。首都圏でソーシャル・ディスタンス2.5段階を発表する際にも、「K防疫は優秀だ」という文言が入っていた。1日の感染者数が1000人を越えた日には、「K防疫の成否をかけて全力を尽くそう」と呼びかけた。その後も感染者数はさらに増加したが、それでもK防疫を一層大きく賞賛した。「われわれが成し遂げた民主主義と人権の成長が…K防疫の基盤になりました」という具合だ。
マスクだけでコロナに対抗している国民が心配する様子をみていると、大統領の自画自賛はもはや常識に逆行している。しかし角度を変えてみると、なぜそうなるのか理解できる。彼の言葉は国民全体ではなく、自らの岩盤支持層だけに向けられた言葉だと考えればどうだろう。「K防疫は大切だ。これを攻撃する人間は敵だ」というフレームが一種の呪文のように簡単に作られてしまうのだ。
この大統領の戦略は目論見通り進んでいるようだ。政権の盲目的追従者にとって、K防疫は攻撃してはならない聖域になった。ワクチン確保に際しての政府の安易な対応と、急増する感染者数の推移を現実として伝えるメディアは「K防疫の狂信者」たちから「異端」というレッテルが貼られる。感染対策について批判的な記事を書いた記者が直面する苦しみについては、ここ数日の間に何度も目撃した。険悪でどこか怪しい攻撃の言葉がコメント欄や電子メールを通じて溢れかえり、取材記者の写真や個人情報までもが犯罪レベルの言葉の暴力と共にSNS(会員制交流サイト)上で広まっていく。青瓦台(韓国大統領府)の掲示板にもこのような書き込みは放置されている。「K防疫を無視する×たちは誰か。韓国に住む日本×たちか」などだ。
文大統領を支持することは当然あり得る。しかし事実に基づいた支持と無条件の狂信は異なる。ジュネーブ大学精神科のアンドレ・ハイナル教授は狂信のメカニズムについて「指導者は単純な宣伝のスローガンを繰り返し使う。社会を善悪に二分し、怒りに狙いをつける仮想の悪魔を作り上げる。事実はねじ曲げられる」と説明した。狂信の世界ではスローガンだけで一つになり、憎悪し、攻撃が行われるのだ。
コロナ・ワクチンをめぐる事実関係はさほど複雑なものではない。韓国に住む韓国人が今接種を受けられるワクチンは存在しない。政府が確保したというワクチンはファイザー以外のものは臨床試験が終わっていない。ファイザーのワクチンも来年の第三四半期にごろにやってくる。国際機関を通じたワクチン確保の枠組み「COVAX」は早ければ来年3月までにワクチンの配布を開始する。「人口の20%に相当するワクチンを供給する」という目標が定められた時期は来年末だ。韓国政府はこれらをわかりにくくして自分たちが成功したかのように発表し、同時に与党議員らは伝道師のように「世界はK防疫を認めている」と叫び続けている。
コロナ・ワクチンについて取材を進めていると、人類が蓄積した知識に基づいてこの革新的なワクチンを開発したという事実をうれしく感じる。私は現代が科学と理性の世の中であることと、それ故にこのような時代に生きられて良かったと信じている。しかしワクチンという科学の結実でさえ敵作りの道具として使われる韓国社会、そのような分裂をあおる政権、そしてその盲目的な追従者たちが憎悪を吐き出す現実をみていると、時に挫折も感じる。「今は本当に21世紀なのか」と。
キム・シンヨン記者
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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